多くのITリーダーは、自社のソフトウェア環境全体──すべてのアプリケーション、ライセンス、連携状況──を把握していると考えています。
しかし、実際にはそうではありません。
当社の調査によると、実際に全体像を把握できているITリーダーは、わずか15%に過ぎません。
残りの85%は、見落としや把握不足が存在する状態で業務を進めています。
企業は新しいSaaSツールの導入を急ぐ一方で、すでに導入済みのツールの把握が追いついていません。
さらに注目すべき点として、「SaaSの可視性が高い」と回答した企業のほうが、セキュリティへの懸念をより多く抱えている傾向が見られました。
これは可視性の向上によって、これまで見過ごしていたリスクが明らかになっていることを示しています。
本レポートでは、企業における「認識」と「実態」の乖離に焦点をあて、ソフトウェア管理における見落とされがちな課題と改善の機会を明らかにします。
調査対象となった企業のIT担当者から得られた詳細な回答をもとに、以下のポイントを明らかにしています。
本調査から導き出された、すべてのITリーダーが把握すべき5つの重要な示唆は以下のとおりです。
SaaS環境を完全に可視化できている企業は15%にとどまります。しかしながら、54%のIT担当者が「現在の可視性に非常に満足している」と回答しています。このギャップが、セキュリティやコストに対する見落としの原因となっています。

可視性が高まることでリスクの実態が見えるようになります。91%のITリーダーが未承認アプリの利用を懸念していますが、多くの企業ではその検出手段が不足しています。
SaaSアプリケーションの管理にスプレッドシートを使っている企業は63%にのぼります。さらに、従業員のSaaS環境を整えるのに5時間以上かかる企業が52%と、1日の業務が失われています。

4社中3社がSaaSライセンス管理に課題を抱えており、非活用ライセンスや重複契約、更新漏れが予算を圧迫しています。自動的なモニタリングが行われていない場合、無駄な支出が発生しやすくなります。
従業員の入退社に関する基本的な業務について、自動化がなされていない企業は全体の50%にのぼります。その結果、新入社員の環境整備に数日を要し、退職者のアカウントが放置されることでセキュリティリスクが生じています。
これらのデータは、現代の業務を支えるSaaSツールに対して、組織の管理体制が追いついていない現状を浮き彫りにしています。
次章以降では、それぞれの調査結果を詳しく解説し、課題だけでなく今後の改善機会についてもご紹介します。
63%のIT担当者が「自社では30個未満のSaaSアプリを利用している」と認識している一方で、実際にはその数を大きく下回って見積もっているケースが多数存在します。この誤認識が、重大なセキュリティリスクやコストの問題を引き起こしています。
SaaS環境の可視性が低い企業ほど、セキュリティリスクに対する懸念が少ないという傾向が確認されました。
これは、実際にはリスクを認識できていないだけであり、安全性が高いことを意味するものではありません。
大規模な組織ほど、可視性に自信を持つ傾向が見られますが、その実態は部署や担当者レベルで異なります。
経営層やシニアITリーダーが満足している一方で、日々の運用を担う現場のIT担当者は、可視性や管理に多くの課題を感じています。
可視性のギャップは、組織的な購買行動や技術的な複雑性から発生します。
可視性の欠如は、セキュリティ面だけでなくコスト面でも深刻な影響を及ぼします。
SaaS環境の可視化ツールを導入した企業では、以下のような問題が明らかになっています。
このような実態が、「可視性の高い企業ほど、セキュリティへの懸念を強く持つ」理由です。
可視性の向上により、初めて真のリスクの全容が見えてくる――本調査は、この逆説的な事実を明確に示しています。
本調査では、SaaSのセキュリティに関する認識と実態の間に明確な乖離があることが判明しました。
ITリーダーの多くが「未管理アカウントの存在」を懸念していますが、実際のセキュリティインシデントは、もっと根本的な課題 ― SaaS管理体制の未整備 ― に起因しているケースが多数見られます。

IT部門の上層部では潜在的なセキュリティリスクを認識しているものの、91%のリーダーが未承認アプリの利用を懸念しているにもかかわらず、それを正確に検出・管理する手段を十分に整備できていない現状があります。
実際、SaaS環境を包括的に可視化できている企業では、セキュリティを「重大な課題」として捉えている割合が61%高くなっています。
これは「可視性が低い=安全」なのではなく、「リスクに気づいていない」だけであることを示しています。
IT部門内でも、役職に応じてリスク認識の視点が大きく異なります。
こうした視点のズレが、セキュリティ施策の盲点や遅れを生む一因となっています。
以下の3点は、多くの組織で十分に認識されていない重大なセキュリティリスクです。
SaaS環境を正確に把握できるようになった企業では、以下のような問題が新たに発覚しています。
こうした発見によって、セキュリティに対する危機意識が一層強まる結果となっています。
組織のセキュリティ対策は、以下のような段階を経て成熟していきます。
調査結果では、大半の企業が「リスク認知」段階にとどまっており、セキュリティ対策の必要性を十分に認識しながらも、実装が追いついていないことが明らかになりました。
先進的な組織は、セキュリティ課題への対応を“事後対応”から“事前防止”へと移行させています。
このように、SaaSの可視化・自動化を起点とするセキュリティ対策は、IT部門にとって単なる防御策ではなく、経営的な競争優位性を高める要素としても機能します。
SaaSアプリケーションの管理方法は企業によって大きく異なります。
本調査では、企業のSaaS管理体制を4つの成熟度レベルに分類し、それぞれの特徴と課題を明らかにしました。

最も初期段階にある63%の企業がこの状態に該当します。
組織内に明確なSaaSポリシーが存在せず、各部門が自由にツールを導入しており、IT部門の関与は限定的です。
一定の管理意識が芽生え始めた段階です。
主要なSaaS導入はIT部門が把握していますが、運用ルールの徹底やセキュリティ施策は十分ではありません。
SaaSの導入にあたって、IT部門の承認を必須とするプロセスを整備しています。
一部自動化や定期的なアプリ棚卸しも導入されており、一定水準の統制が図られています。
最も成熟した段階で、全体の15%の企業が該当します。
リアルタイムの可視化、自動化されたセキュリティポリシーの運用、統合的なアクセス管理などを実現しています。
SaaS管理の成熟企業には、以下のような共通点が見られます。
管理体制が初期段階にとどまる企業では、以下のような具体的な問題が発生しています。
セキュリティリスクの見逃しや重複契約によるコスト損失が発生

これらの課題は、以下のような理由で長期化しがちです。
調査では、SaaS管理の成熟化は以下のステップを経て進行する傾向が見られました。
このプロセスを経ることで、以下のような成果が得られます。
成熟したガバナンスモデルへの移行は、コストやセキュリティの課題を解決するだけでなく、組織全体の生産性向上にもつながります。

従業員1人あたりのSaaS環境の初期設定に5時間以上を要している企業が全体の52%に上るという調査結果からも分かるように、現状のSaaS管理は効率的とは言えません。非効率な初期設定や非活用ライセンスの放置は、組織全体のコスト構造に影響を与えています。
新入社員へのツール提供にかかる平均時間は以下の通りです。
このように、多くの企業で初期設定に多大な時間を費やしている現状が浮き彫りになっています。

手動による運用は、単なる時間の浪費にとどまりません。以下のような波及的な問題が生じています。
以下は、手動と自動化の運用方式の比較です。
結果として、自動化により得られるのは「時間の短縮」だけでなく、「リスクの低減」でもあります。
以下のようなセキュリティリスクも、手作業による管理では見落とされがちです。
自動化の必要性は認識されていても、多くの企業が導入に踏み切れていない理由として、以下が挙げられます。
とはいえ、今後の動向は明るい兆しもあります。調査によれば、
SaaSの導入が拡大する一方で、手作業中心の運用はもはや限界を迎えつつあると認識され始めています。
SaaSライセンスに関する課題を抱える企業は全体の75%にのぼります。
これは単なるサブスクリプション管理の問題ではなく、組織全体に波及する構造的なコストと非効率の根源であることが、調査結果から明らかになりました。
表面化するのは「非活用ライセンス」「重複契約」「更新漏れ」といった直接的な損失ですが、問題はそれだけではありません。
これらは、ライセンス費以上に見逃されがちな“間接コスト”を生み出します。
調査では、企業の規模によりSaaSコストへの向き合い方が異なることも判明しました。
いずれも共通する課題は「非効率なSaaS管理」がもたらす波及的な負担です。
SaaS管理が成熟するにつれ、注力すべき領域も変化します。
管理体制が整うほど、SaaSを「コスト」ではなく「戦略投資」として捉える傾向が高まります。
SaaS可視性が高い企業ほど、セキュリティへの懸念が60%以上高くなるという結果も明らかになりました。
これは、コストを適切に管理しようとした結果として、潜在的なセキュリティリスクにも気づくようになることを意味します。
成熟企業は、SaaS管理ツールを単なるコスト削減手段ではなく、以下のような経営価値を高める手段として位置づけています。
調査では、今後の方向性について以下のような傾向が見られました。

これは、SaaS管理における段階的な成長モデルの存在を示しています。
SaaS環境への可視性が高い企業では、セキュリティへの懸念が60%以上高くなる傾向があります。
このことから、今後は企業規模を問わず「セキュリティ最優先」が主流となっていくことが予測されます。
調査結果に基づき、効果的なSaaS管理に向けた4つの基本方針を提示します。
以下のような成果が、SaaS管理の成熟度を測る重要な指標となります。
SaaS管理の最適化には、日々の運用改善と中長期的な戦略の両立が求められます。
これを実現した企業は、セキュリティリスクと業務コストの両面で優位に立ち、スケーラブルな運用体制を構築できます。
IT部門が「火消し対応」から解放され、価値創出に集中できる環境こそ、理想的なSaaS管理のゴールです。
SaaS管理に関する課題を認識していても、実際に改善へと踏み出している企業は多くありません。
この「認識」と「実行」のギャップが、今まさに多くの組織にとってリスクであり、同時に改善の機会でもあります。
本調査からは、SaaS管理の課題に対処するための明確なアプローチが浮かび上がりました。
SaaSの導入スピードは加速しており、すでに75%の企業がライセンス管理の課題に直面しています。
このままでは、セキュリティリスクや運用コストの増大が避けられません。
今求められているのは、「対応するか否か」ではなく、「いかに早く取り組むか」です。
今すぐ行動に移した企業は、以下のようなメリットを享受できます。
SaaS管理の最適化は、単なる問題回避にとどまりません。
戦略的に取り組むことで、IT部門と組織全体の競争力強化につながります。