
社内SaaSが30を超えると、アカウントの新規発行・権限変更・退職時の削除を手作業で回しきれなくなり、休眠アカウントの放置や権限剥奪漏れが情報漏洩リスクとして浮上してきます。
しかし「アイデンティティ管理」「IAM」「IGA」「IDaaS」「SSO」と似た言葉が多く、自社が今どの領域を整えるべきかが曖昧なままになりがちです。導入製品を決める前に、それぞれの守備範囲と関係性を整理しておく必要があります。
本記事ではアイデンティティ管理の定義、IAM・IGA・IDaaSの違い、構成要素ごとの実装ポイント、SaaS管理プラットフォームとの組み合わせまで、情シスが運用設計に踏み出すための材料を一気通貫で整理します。
認証統合とアクセス管理を担当する情報システム部門・セキュリティ担当の方を主な読者として想定しています。
アイデンティティ管理とは、組織のITリソースにアクセスする利用者・デバイス・サービスのデジタルアイデンティティ(ID情報)を、作成から削除までライフサイクル全体で統制する仕組みのことです。「誰が・いつ・何にアクセスできるか」を一貫したルールで管理し、業務効率とセキュリティの両立を狙います。
アイデンティティ管理はしばしばIAM(Identity and Access Management)と同義で使われます。厳密には「アイデンティティ管理」がID情報の作成・更新・削除の管理に焦点を当てる言葉、IAMはそこにアクセス制御まで含めた統合概念ですが、実務上は同じ領域を指すことが多いと考えて問題ありません。
クラウド・SaaS・モバイルワークの普及で、ユーザーがアクセスするリソースが社内ネットワーク外に大きく広がりました。ネットワーク境界に依存した防御が機能しにくくなった結果、「アイデンティティが新しいセキュリティ境界」というゼロトラストの考え方が広まり、アイデンティティ管理の重要度が一気に上がっています。
参考:ID アクセス管理 (IAM) とは - Microsoft Security
アイデンティティ管理はIdentification(識別)・Authentication(認証)・Authorization(認可)の3層で構成されます。それぞれの役割を分けて理解することで、SSOやMFAといった具体的な仕組みがどの層を担っているかが整理できます。
識別は「あなたは誰か」を主張する段階で、ユーザー名・メールアドレス・社員番号などのIDで自分を名乗る行為です。識別だけでは本人確認になっておらず、後続の認証ステップとセットで初めて意味を持ちます。
認証は「主張されたIDが本物か」を検証する段階で、パスワード・生体認証・FIDO2セキュリティキー・ワンタイムパスワードなどの認証要素を使います。MFA(多要素認証)はこの認証層を強化する手段で、現代のアイデンティティ管理ではほぼ必須の要件です。
認可は「本人と確認できたユーザーが何をしてよいか」を決める段階で、ロール、グループ、ポリシーといった概念で管理されます。最小権限の原則に基づき、業務上必要な範囲だけにアクセスを絞り込むのが基本姿勢です。
似た略語が並んでいて混乱しやすい領域ですが、それぞれの守備範囲は明確に分かれています。製品選定の前にこの3者を整理しておくと判断が早くなります。
IAMはアイデンティティ管理の総称で、認証・認可・アカウントライフサイクル管理を含む広い概念です。社内システム・クラウド・モバイル全体のID統制を指す上位カテゴリと考えてよいでしょう。
IDaaSはクラウド型のIAMサービスの実装形態で、Microsoft Entra ID、Okta、OneLogin、HENNGE Oneなどがこの領域にあたります。SSO・MFA・条件付きアクセスといった機能をサブスクリプションで提供し、自社で認証基盤を構築せずに導入できる点が選ばれる理由です。
IGAはアイデンティティのガバナンス領域に特化したカテゴリで、アカウント棚卸し(アクセスレビュー)、職務分離(SoD)、特権管理、コンプライアンスレポートなどを担います。SailPointやSaviynt、Microsoft Entra ID Governanceなどが代表的な製品です。
IAMという広い枠組みの中で、認証・SSOを担うのがIDaaS、ガバナンス・統制を担うのがIGAというすみ分けが基本です。中堅企業ではIDaaS単独でスタートし、上場対応や監査要件が厳しくなる段階でIGAを追加するのが現実的な進め方になります。
参考:Identity and Access Management - SailPoint
実際の運用で押さえる主要機能を、業務シーンに紐づけて整理します。製品選定時のチェックリストとして活用できます。
シングルサインオンは1度のログインで複数のSaaS・社内システムに横断アクセスできる仕組みで、SAMLやOpenID Connectといった標準プロトコルで実装されます。パスワードリセット問い合わせの削減と業務効率化の双方に効きます。
多要素認証は認証層を強化する機能で、パスワードに加えてアプリ通知・SMS・FIDO2キーなどを組み合わせます。条件付きアクセスと併用することで、社外アクセス時のみMFAを要求するといった柔軟な運用ができます。
入社時のアカウント発行(プロビジョニング)と退職時のアカウント削除(デプロビジョニング)を自動化する機能です。SCIMプロトコルが標準として広く使われており、人事システム連動で自動化すると退職処理の漏れを大幅に削減できます。
四半期や半年ごとに各ユーザーが持つアクセス権限を見直すプロセスを自動化する機能です。J-SOX対応や内部監査での説明責任を果たすうえで重要になります。
管理者権限など強い権限を必要なときだけ付与するジャストインタイム制御の仕組みです。特権アカウント乗っ取りによる被害を最小化できます。
参考:ID アクセス管理 (IAM) とは - Microsoft Security
アイデンティティ管理を整備すると、セキュリティ・業務効率・コンプライアンスの3軸で効果が現れます。導入提案時の論点として整理しておきましょう。
パスワードの使い回しや退職者アカウントの放置といった典型的な情報漏洩リスクを構造的に低減できます。条件付きアクセスとMFAの組み合わせで、リモートワーク環境でも一貫した防御を維持できます。
入社時のアカウント発行を大幅に短縮、退職処理の数十SaaS分の手作業を削減、パスワードリセット問い合わせを減らす、といった効果が報告されています。情シスが本来取り組むべき改善業務に時間を回せるようになります。
監査ログを一元的に取得・保管できるため、内部統制報告制度(J-SOX)やISMS、SOC 2などの監査対応で求められる証跡を効率的に揃えられます。アクセスレビューを自動化すれば、四半期ごとの権限棚卸しの工数も大きく削減できます。
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機能が豊富な分、導入の進め方を誤ると現場の混乱や統制の形骸化を招きます。情シスが押さえておきたい注意点を3つ紹介します。
最初から全SaaS・全ユーザーを対象に展開しようとすると設定工数が膨大になり、半年で頓挫するケースをよく見ます。Microsoft 365とSalesforceなど主要SaaSから着手し、四半期単位でスコープを広げる進め方が現実的です。
アイデンティティ管理基盤がダウンすると、認証統合された全SaaSが使えなくなる単一障害点リスクがあります。基盤外のローカル管理者アカウントを最低2つ、別保管庫で管理するBreak-Glass運用を必ず用意しておきましょう。
動的グループや条件付きアクセスは、人事マスターの属性(部署・職位・雇用区分)を前提に動きます。属性データが古いまま運用すると、本来アクセスできるべき人が弾かれたり、剥奪すべき権限が残ったりします。人事システムとの同期頻度と項目精度を最初に整備するのが鉄則です。
アイデンティティ管理は認証・認可・ガバナンスを担いますが、SaaSのライセンスコスト最適化、シャドーITの可視化、契約・更新管理といったSaaS固有のライフサイクルまでは守備範囲外です。SaaS数が30を超える組織では、IAMとSaaS管理プラットフォーム(SMP)の組み合わせ運用が現実解になります。
IAMはアカウントの存在を把握できても、各SaaSのライセンス利用率や有償ライセンスの過剰契約までは追えません。年間SaaS支出の最適化には別の仕組みが必要です。
部門が情シスに無断で契約したSaaSは、IAMで管理する範囲に入ってきません。クレジットカード明細やSaaS購買データを横断的に取得する仕組みが必要になります。
SaaSごとの契約期間、解約タイミング、更新前のコスト比較といった商務情報はIAMの対象外です。契約書管理と利用実態の突き合わせをセットで運用する必要があります。
ジョーシスのプラットフォームは350以上のSaaS連携を備え、認証管理・アカウント発行削除・ライセンス最適化など、IAMがカバーしないSaaSライフサイクル全体を統合管理できる設計です。国内外700社以上の導入実績があり、IT工数を最大50%、ITコストを最大75%削減した事例も報告されています。
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検討フェーズで担当者から多く寄せられる質問を整理しました。
厳密にはアイデンティティ管理がID情報の作成・更新・削除の管理、アクセス管理が認可・権限制御を指しますが、実務では両者を統合した「IAM(Identity and Access Management)」という言葉でまとめて扱われるのが一般的です。
IDaaSはIAMを実現するクラウドサービスの形態なので、両者は競合関係ではありません。中堅企業はIDaaS(Microsoft Entra IDやOktaなど)を選ぶことで、IAMの主要機能を即座に利用開始できます。
監査要件が厳しくなる上場対応フェーズや、特権アカウントの統制が経営課題になる組織でIGAの追加を検討します。中小企業段階ではIDaaSの基本機能で十分なケースが多いです。
社外アクセスや管理者ロールには必須と考えてよいでしょう。一般ユーザーへの全面適用は導入直後の問い合わせ増加を招きやすいため、リスクの高い操作に絞って段階展開するのが現実的です。
アイデンティティ管理は識別・認証・認可の3層で構成され、SSO・MFA・プロビジョニング・アクセスレビューといった機能を組み合わせて、組織のID統制を実現します。IAMという広い枠組みの中で、IDaaSが認証・SSOを、IGAがガバナンス・統制を担うすみ分けが基本です。
ただしアイデンティティ管理だけではSaaSのライセンスコスト最適化やシャドーIT可視化までは届かないため、SaaS管理プラットフォームとの組み合わせ運用が現実解になります。自社のSaaS環境を統合的に整備したい場合は、5分でわかるJosysから検討を始めるのが近道です。
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