
セキュリティクリアランスは、政府が指定する重要情報を取り扱う者に対し、適性評価を行ったうえで認可を与える制度です。日本では2024年5月に「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」が成立し、2025年5月16日の施行により経済安全保障分野での運用が開始されました。
しかし、多くの企業ではこの制度の全体像、自社が対象となるか、取得に何が必要かが不透明な状態です。誤った情報に基づいて準備を進めると、対象範囲を見誤り、不要なコストを抱え込む可能性があります。
本記事では、セキュリティクリアランス制度の全体像と、企業として取得・対応するための実務手順を整理します。制度概要、対象事業者、適合事業者認定の取得プロセス、社内体制構築までを、中堅企業の経営層・情シス・法務担当者向けに解説します。
対象読者は、防衛・宇宙・先端技術分野で政府調達への参加を検討する事業者、サプライチェーンの一員として要件に対応する必要がある企業、情報セキュリティ管理体制を強化したい中堅企業の責任者です。
セキュリティクリアランス制度は、国家の安全保障に関わる重要情報を取り扱う者の適格性を政府が評価する仕組みです。米英欧では数十年の運用実績があり、日本では経済安全保障の文脈で2024年に法制化されました。
中堅企業にとっても、政府調達・国際共同研究・先端技術開発への参画機会を確保する観点で、制度理解と早期準備が重要になります。
2024年5月10日成立、同月17日公布、2025年5月16日施行の「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」により、経済安全保障分野で「重要経済安保情報」を指定し、取扱者の適性評価を行う制度が整備されました。
対象情報は、安全保障に重大な影響を及ぼす経済関連情報のうち、特に秘匿性が高いものです。2025年1月31日に運用基準、同年5月2日にガイドライン・Q&Aが内閣府から公表されています。
2014年施行の特定秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野を対象とします。重要経済安保情報法は、これに経済安全保障分野を加えた制度として位置づけられます。
両制度は対象情報の範囲が異なり、企業対応も別建てで設計されます。防衛関連事業者は両方の対応を求められるケースもあります。
米国(Confidential/Secret/Top Secret)、英国(OFFICIAL/SECRET/TOP SECRET)、EU加盟国などとの情報共有・共同研究の前提として、各国互換のクリアランス制度が必要です。日本の制度化も、国際協調の観点が背景にあります。
中堅企業でも、海外パートナーとの共同開発・政府調達では、相手国制度との整合が要件になるケースが増えています。
参考:重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律 - 内閣府
セキュリティクリアランス制度は、個人を対象とする「適性評価」と、事業者を対象とする「適合事業者認定」の2層で構成されます。両方を同時に整備することで、組織として情報を扱える体制になります。
中堅企業では、まず適合事業者認定の取得を目指し、事業者として体制を整備したうえで、特定の情報を扱う個人の適性評価を進める順序が一般的です。
特定の重要情報を取り扱う個人に対し、政府が行う適性評価です。本人の同意のもと、海外渡航歴、犯罪歴、信用情報、家族・同居人の氏名・生年月日・国籍・住所などを調査します。
評価項目は法律で規定され、重要経済安保情報を提供する行政機関の長が実施し、調査は原則として内閣府が一元的に行います。評価結果は本人と所属事業者に通知されます。同一行政機関では変更がない限り特段の期限の定めなく有効とされています。
重要情報を取り扱う事業者として、組織体制・物理セキュリティ・情報管理体制が要求基準を満たしているか政府が確認する制度です。
認定取得には、ISMSやSOC2より厳格な要件が設定されます。具体的な要求事項は施行規則で詳細化されますが、米英の事業者認定制度を参考にした設計になる見込みです。
重要経済安保情報保護活用法における適合事業者認定は、企業が自由に申請できる任意認証ではありません。行政機関が重要経済安保情報を提供・保有させる必要があると判断したことが契機となります。
また、CONFIDENTIAL/SECRET/TOP SECRETのような国内認定区分の詳細は現時点で公表されていません。米英制度を参考にした準備は参考になりますが、段階別区分を前提とした申請計画は立てられない状況です。
すべての企業がセキュリティクリアランス取得を目指す必要はありません。取得が経営的に意味を持つ事業者の特徴を整理します。
中堅企業では、自社の事業領域・取引先構造・成長戦略から、取得の必要性を慎重に判断します。
装備品開発・製造、防衛システム保守、関連部品供給を担う事業者です。防衛省調達への参加、米英の防衛企業との共同開発、ファイブアイズ諸国との情報共有が業務上必要な場合、クリアランス保持が事実上の参加条件になります。
衛星開発、ロケット製造、原子力施設関連、量子コンピューティング、半導体製造装置、先端材料などの分野で、政府主導プロジェクトへの参加を目指す事業者です。
経済安全保障推進法で指定される特定重要技術の研究開発でも、関連情報の保護要件が発生する可能性があります。
政府機関のサイバー防衛、重要インフラ事業者へのセキュリティサービス提供、脅威インテリジェンス共有プラットフォームへの参加などで、機密情報を扱う事業者です。
特に脅威情報の国際共有では、相手国のクリアランスに対応した体制が前提条件になります。
電力、ガス、通信、金融、交通、医療、水道などの重要インフラ事業者は、システムの安全性確保の観点で、政府からの脅威情報提供の対象になります。情報受領者として、保管・取扱の要件が発生する可能性があります。
適合事業者認定は企業が任意に申請できる制度ではなく、行政機関から打診・連絡を受けた場合に備える体制づくりが重要です。公式ガイドラインおよび米英制度を参考に、準備の標準フローを示します。
中堅企業では、認定対応には相当の準備期間が必要です。行政機関との接触が生じた際にスムーズに対応できるよう、体制整備は早期に着手することが望ましいです。
なぜクリアランスを取得するのか、取得によりどの事業機会にアクセスできるのか、取得・維持コストに見合うリターンがあるかを経営判断します。
戦略的に取得する企業と、取引先要請で受動的に取得する企業では、組織体制・投資規模が大きく変わります。経営層のコミットメントが前提条件です。
ISMS・Pマーク・SOC2など既存の管理体制と、クリアランス要求事項のギャップを分析します。物理セキュリティ、人的セキュリティ、情報管理プロセスの不足箇所を特定します。
特に物理セキュリティ(専用エリア、入退室管理、保管庫)と人的セキュリティ(従業員の身元確認、教育)は、既存制度より厳しい要件が想定されます。
特定情報の保管・取扱を行う物理施設を整備します。専用エリア、扉・施錠、監視カメラ、書類保管庫、ネットワーク隔離などの設備投資が発生します。
組織体制としては、情報保護管理者、教育担当、内部監査担当などの専任体制を整備します。中堅企業では既存組織の役割拡張で対応するケースが現実的です。
政府への申請書類を作成し、現地審査を含む審査プロセスに対応します。書類審査・現地調査・運用記録確認の3段階で実施される見込みです。
申請から認定までは6〜12ヶ月程度かかると想定されます。審査での指摘事項に対する是正対応も期間に含めます。
認定後は、定期的な運用記録提出、内部監査実施、重要事象(人員変動、組織変更、インシデント)の都度報告などが求められます。
認定の有効期間は法律上一律に定められていません。同一行政機関では変更がない限り有効とされますが、組織変更や担当業務の終了があれば都度見直しが必要です。継続的な体制維持コストを織り込んだ事業計画が必要です。
セキュリティクリアランス制度は、既存の情報セキュリティ認証と要求水準が異なります。組織として複数制度を統合的に運用する設計が必要です。
中堅企業では、ISMSをベースに段階的に水準を引き上げる戦略が現実的です。既存認証を取得していない状態でクリアランスに挑戦するのは、ハードルが高すぎます。
ISMSは情報セキュリティの一般的なマネジメントシステムで、自社判断でリスクと管理策を選択できる枠組みです。クリアランス制度は政府が要求する管理策が固定的で、選択の自由度が低い特徴があります。
ISMS取得済み事業者は、クリアランス要件への対応が比較的進めやすい立場です。ギャップ分析の出発点としてISMS文書を活用できます。
Pマークは個人情報保護に特化した認証で、JIS Q 15001:2023に基づきます。クリアランスとは保護対象(個人情報vs重要経済安保情報)が異なるため、別建てで対応する必要があります。
両方を取得する事業者では、情報資産分類で「個人情報」と「重要経済安保情報」を区別管理する設計が必要です。
ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)は、政府クラウドサービス調達の前提となる評価制度です。クラウド事業者向けの認証で、クリアランスとは対象が異なりますが、政府調達という共通点があります。
クラウドサービスを政府機関に提供する事業者は、ISMAP登録に加えて、扱う情報の機密度に応じてクリアランスが必要になる可能性があります。
参考:ISMAP概要 - 経済産業省 参考:ISMS認証制度 - JIPDEC
制度理解で頻出する用語を整理します。法律用語と業界用語が混在するため、組織内で共通理解を持つことが重要です。
経営層・法務・情シス・人事の関係部門で用語を揃え、社内議論で混乱を避けます。
セキュリティクリアランス取得の前提となる管理体制は、IT資産・SaaS・ID・アクセス権の継続的な可視化と統制が出発点です。ジョーシスのプラットフォームは、ISMS・Pマーク・SOC2の要求水準をベースに、より高度なクリアランス要件への移行を支援します。
中堅企業の情シスでは、限られた人員で複数水準のセキュリティ要件に対応する必要があり、継続運用では自動化が有効です。
ジョーシスは350以上のSaaSと連携し、組織内で利用されているサービス・ライセンス・ユーザを継続的に可視化します。クリアランス要件の前提となる情報資産台帳の自動更新が実現します。
シャドーITの早期発見、未使用ライセンスの特定、契約状況の可視化まで、ダッシュボードベースで運用できます。重要情報を扱う部門のSaaS利用統制にも活用できます。
クリアランス保持者の識別、アクセス権の最小化、アクセスレビューの仕組み化など、ID管理の高度化が実装できます。退職者アカウント残存、過剰権限放置といった、認証審査での頻出指摘の発生源を断てます。
特権アカウントの利用状況、多要素認証の有効化状況、ログイン履歴も継続的に追跡できます。なお、物理区画・保管容器・非接続端末・取扱簿など、SaaSツールのみでは対応できない要件は別途整備が必要です。
クリアランス制度では、定期的な運用記録提出と内部監査実施が求められる見込みです。ジョーシスは操作ログ・アクセス変更履歴・特権操作記録などを自動取得し、監査対応工数を大幅に削減します。
実際の導入企業では、IT工数を最大50%、ITコストを最大75%削減した事例があります。高度な認証要件に挑戦する事業者にとって、運用基盤の自動化は必須条件です。
ジョーシスは国内外700社以上に導入され、SaaS管理・IDガバナンス・IT資産管理を統合的に担うプラットフォームとして、中堅企業の高水準セキュリティ要件への対応を支えています。
参考:Josys 公式サイト
制度対応を検討する経営層・情シス・法務担当者からよく挙がる質問を整理します。制度の具体的運用は施行規則で確定するため、最新情報を確認しながら判断することが重要です。
防衛・宇宙・先端技術・サイバーセキュリティ・重要インフラ分野で、政府調達・国際共同研究への参画を目指す事業者は検討対象です。経営戦略として明確な目的がない限り、無理に取得する必要はありません。
個人の適性評価は政府が実施するため直接費用は限定的ですが、事業者認定には体制整備・施設投資・運用維持で数千万円〜数億円規模が想定されます。具体額は要求水準と事業規模に応じて変動します。
個人の適性評価は本人の同意が前提です。海外渡航歴・犯罪歴・信用情報・家族および同居人の氏名・生年月日・国籍・住所などが調査対象となり、本人の同意取得プロセスが必須です。
ISMS取得済み事業者は出発点としては有利ですが、物理セキュリティ・人的セキュリティ・情報管理プロセスで追加要件があります。ギャップ分析を経て、不足部分の体制整備が必要です。
定期的な運用記録提出、内部監査、教育訓練、施設維持、専任人員配置などが継続コストとして発生します。年間数百万円〜数千万円規模が想定され、事業計画に織り込む必要があります。
セキュリティクリアランス制度は、日本企業にとって新たな対応領域です。経済安全保障の文脈で重要性が高まる一方、取得には1〜2年の準備期間と継続的な維持コストが必要になります。
中堅企業では、既存のISMS・Pマーク・SOC2をベースに、段階的に管理水準を引き上げる戦略が現実的です。SaaS管理・IDガバナンス・IT資産管理を統合したツール基盤の整備が、認定取得への前提条件として機能します。
ジョーシスのような統合プラットフォームを活用することで、情報資産可視化・ID管理・監査証跡取得が自動化され、IT工数を最大50%削減しながら高度な認証要件への対応力を獲得できます。
まずは自社の事業戦略上、クリアランス取得が必要かを経営判断し、必要と判断したら既存認証取得状況のギャップ分析から着手することをおすすめします。施行規則の詳細確定を待ちつつ、基盤整備は今から進められます。
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