
企業が利用するSaaSの数は、ここ数年で急速に増えています。スマートキャンプが2024年7月に実施した「SaaS利用に関する調査2024」によると、1社あたりのSaaS利用数が11個以上の企業は30.7%にのぼり、前年から5ポイント増加しました。利用数は年々増加傾向にあります。
問題は、導入したSaaSがすべて有効に使われているわけではないことです。現場部門が情シスの承認を経ずに契約した野良SaaSや、プロジェクト終了後も放置されたサービスが混在し、テックスタック全体が"把握できない資産"の集合体になっているケースは珍しくありません。
こうした状況が続くと、情シスが直面する課題は連鎖的に広がります。コストの無駄、退職者アカウントの放置、データの分散、セキュリティリスクの増大——これらは互いに絡み合い、IT部門の業務負荷を押し上げます。SaaSテックスタックを体系的に整理するための考え方と手順を、情シス担当者の実務に沿って整理していきます。

参考:1社あたりのSaaS利用数「11個以上」が前年比+5% -「SaaSに利用に関する調査」2024年版
SaaSスプロールとは、企業内でSaaSツールが無秩序に増殖し、IT部門が全体を把握・管理できない状態を指します。クラウドサービスの普及にともない、現場の各部門が情シスの承認を経ずにサービスを契約・利用するケースが増え、シャドーITとして顕在化するパターンが典型的です。
このスプロール現象が起きる背景には、いくつかの構造的な要因があります。
SaaSの契約ハードルが劇的に下がったことが、まず挙げられます。従来のオンプレミスシステムと異なり、クレジットカード一枚あれば誰でもSaaSを契約できるため、現場担当者が部門予算で独断導入するケースが増えています。加えて、IT部門と現場部門の間には情報の非対称性が生じやすく、現場は「使えればいい」という発想でツールを選び、情シスは「把握できていない」という状況が慢性化します。
退職者が利用していたアカウントが削除されないまま残存したり、同じ機能を持つSaaSが部門別に重複契約されたりする問題も深刻です。SmartHRが2025年6月に公表した情報システム部門向けの実態調査(ID管理システム未導入企業の情シス担当者108名が対象)では、63.9%が「退職者や異動後のSaaSアカウントを適切に管理できていない」、60.2%が「未使用アカウントがある」と回答しており、多くの企業が同じ課題を抱えていることがうかがえます。

関連記事:SaaSスプロールとは何か、その課題を克服する方法 | ジョーシス
SaaSテックスタックを体系的に整理することで、情シス部門が得られる効果は大きく3つに集約されます。社内でのプロジェクトの優先度を上げるためにも、これらを事前に整理しておくことが役立ちます。
利用されていないSaaSのライセンスは、毎月コストだけを消費し続けます。棚卸しと見直しによって未使用ライセンスや重複契約を解約すれば、IT支出を大きく圧縮できる余地があるといわれています。契約の更新タイミングを管理し、不要なライセンスを解約するだけでも、年間のIT予算の最適化につながります。
退職者のアカウントが残存したSaaSは、不正アクセスの経路になり得ます。また、情シスが把握していない野良SaaSは、企業データの外部漏洩リスクを高めます。テックスタックを整理し、すべてのSaaSを管理対象に組み込むことで、アカウントライフサイクルを適切にコントロールできるようになります。
同じ機能を持つSaaSが複数存在すると、従業員はどのツールを使えばよいか迷い、データが分散してしまいます。ツールの役割と使い分けを明確化することで、業務フローがシンプルになり、従業員の生産性向上につながります。
テックスタックの整理は、一度きりの作業ではなく継続的な管理プロセスです。全体の流れを把握してから個々の作業に入ることで、抜け漏れや重複を防げます。
初回のプロセスを丁寧に設計しておくことで、2回目以降の棚卸しは大幅に効率化されます。
テックスタック整理の最初にして最も重要な作業は、社内で使われているSaaSを漏れなく把握することです。情シスが関与せずに現場部門が独自契約したサービスは見落としやすいため、複数の手段を組み合わせて洗い出します。
情シス担当者が実践している洗い出し方法は、大きく4つに整理できます。
経費精算データとクレジットカード明細の確認が、まず有効です。SaaSの利用料はほとんどがカード払いまたは振込のため、経理部門と連携して支払い先を抽出することで、契約中のサービスを網羅的に把握できます。部門カードの明細も対象に含めることが重要です。
各部門へのヒアリングも欠かせません。部門の代表者やマネージャーに「どんなSaaSを業務で使っているか」を直接確認します。ヒアリングシートを事前に配布し、回答を統一形式で収集すると整理しやすくなります。
シングルサインオン(SSO)ログの確認も活用できます。IdP(IDプロバイダー)やSSOソリューションのログを分析することで、認証されているSaaSの一覧が把握できます。ただし、SSOを経由していない野良SaaSは検出できないため、他の手段との組み合わせが必要です。
**SaaS管理ツールを使った自動検出が、最も網羅性の高い方法です。**ジョーシスのようなSaaS管理プラットフォームを導入すると、社内で利用されているSaaSを自動的に検出し、アカウント数や利用状況を一覧化できます。手作業の工数を大幅に削減できる点も大きなメリットです。

洗い出したSaaSをリスト化したら、各サービスに必要な情報を付加して台帳を作成します。台帳はその後の評価・判断・管理の基盤になるため、最初から必要な項目を漏れなく記録することが重要です。
台帳に盛り込む項目は、後工程の評価・判断・運用で必要になるものを軸に設計します。最低限おさえたいのは「基本情報」「コスト情報」「利用状況」「管理情報」の4カテゴリで、それぞれ次のような項目を整理しておくと活用しやすくなります。
基本情報には、サービス名、利用目的・用途、利用部署、主要利用者数(ライセンス数と実アクティブ数)、契約管理者(情シス側と部門側の双方)を記載します。
コスト情報では、月額・年額費用、1ライセンスあたりの単価、支払い方法、契約更新日と自動更新の有無をまとめます。なかでも更新日の管理は、解約タイミングの見誤りを防ぐうえで特に重要です。
利用状況の欄には、直近3ヶ月のログイン頻度、アクティブアカウント率(実際にログインしているユーザーの割合)、最終ログイン日を残しておきます。
管理情報として、SSOとの連携有無、契約プラン名、代替ツールの有無も控えておくと、評価や移行の判断がスムーズになります。
台帳の初期作成はExcelやGoogleスプレッドシートでも対応できますが、更新が止まると情報が陳腐化します。継続的な管理を見据えるなら、SaaS管理ツールへの移行を早めに検討することをおすすめします。
SaaSとITデバイスを一元管理し、棚卸しを自動化する方法を5分で理解できる資料を用意しています。台帳作成・アカウント把握にかかる工数を大幅に削減したい情シス担当者の方はご参照ください。
台帳が整ったら、各SaaSを「継続」「統合・移行」「廃止・解約」の3つに仕分けします。この判断がテックスタック整理の核心です。感覚ではなく客観的な評価基準を設けることで、部門間の合意形成がスムーズになります。
評価の基本的な枠組みは、「業務価値(このSaaSがなくなると業務に支障が出るか)」と「コスト効率(支払っているコストに見合う活用ができているか)」の2軸です。
業務価値の判断指標として、アクティブユーザー率(ライセンス数に対して実際にログインしているユーザーの割合)を活用します。一つの目安として、アクティブユーザー率が20%以下の場合は実態として利用されていない可能性が高く、廃止候補として判断できます(適切なしきい値はSaaSの性質や利用形態によって調整します)。
コスト効率の判断指標として、1ユーザーあたりの月額コストと業務インパクトを比較します。同等の機能を持つSaaSが社内に複数存在する場合は、統合の検討対象になります。
この判断は情シスだけで行わず、利用部門のマネージャーを交えて実施することが重要です。現場の実態を把握せずに廃止を決定すると、業務に支障をきたす可能性があります。
参考:SaaS投資対効果の最大化に向けたコスト最適化戦略 | ジョーシス
評価が完了したら、具体的な実行計画を策定します。解約・移行・統合にはそれぞれ準備が必要であり、順序を誤ると業務影響が出ます。
SaaSを解約する際には、契約の事前通知期間(通常30〜90日前)と自動更新のタイミングを確認することが必須です。更新直後に解約を検討しても、次の更新まで費用が発生し続けます。解約前には、当該SaaSに保存されているデータのエクスポートと移行先の確保も合わせて行います。
重複するツールを統合する際は、段階的に進めることで業務への影響を最小化できます。まず廃止するSaaSのデータを移行先にエクスポートし、利用部門に対して移行スケジュールと新しいワークフローを説明します。移行期間中は両方のサービスを並行して使えるようにしておき、移行完了を確認してから旧サービスのアカウントを削除・解約します。
解約・廃止と並行して、各SaaSのアカウントクリーンアップも実施します。退職者のアカウントがアクティブのまま残存しているケースは非常に多く、セキュリティリスクとして放置できません。アカウント棚卸しと整理は、テックスタック整理のタイミングで必ず実施します。

テックスタックを整理しても、新たなSaaSが無秩序に導入され続けると、数ヶ月後には同じ状況に逆戻りします。**整理プロジェクトの仕上げとして、今後のSaaS管理を持続させるガバナンス体制の構築が不可欠です。**
新規SaaSの導入を情シスが把握・管理できるよう、導入承認フローを整備します。基本的な流れは「現場部門が申請 → 情シスが機能重複・セキュリティを確認 → 管理職承認 → 導入許可」というサイクルです。
申請時に確認すべき項目として、類似機能の既存SaaSとの重複有無、セキュリティポリシーへの準拠(データ保存場所・認証方式)、SSOとの連携可否、利用人数と契約期間の見込みを盛り込むと、管理品質が上がります。
SaaSの台帳は、四半期または半年に1回の頻度で見直します。契約更新月の前月には必ず利用状況を確認し、継続・プラン変更・解約の判断を行う習慣をつけます。退職者が発生したタイミングで、その従業員が保有していたすべてのSaaSアカウントを削除するオフボーディングチェックリストも整備しておきます。
参考:SaaSも棚卸が必要!?あるある課題と解決策 | SHIFT Group 技術ブログ
手動での棚卸しは、初回整理には有効ですが継続的な管理には限界があります。SaaS管理ツールを活用することで、利用状況の継続的なモニタリングと台帳の自動更新が可能になり、情シスの管理負荷を大幅に削減できます。
SaaS管理ツールが備える主な機能は、おおむね次の4つに整理できます。1つ目は社内SaaSの自動検出で、アカウント数・利用状況・コストを一元管理できる点です。2つ目は退職者が発生した際に、紐づくすべてのSaaSアカウントを一括で削除・無効化する機能です。3つ目はライセンスの未使用枠を検出して過剰契約を可視化する機能、そして4つ目がSaaS導入申請のワークフローを電子化し、承認履歴を記録する機能となります。
SaaS管理ツールを選定する際には、連携できるSaaSの種類(API連携数)、アカウントのライフサイクル管理機能の充実度、シャドーIT検知機能の有無、既存のIdP・SSOとの連携可否を確認します。
ジョーシスは350以上のSaaSアプリと連携(31カテゴリ・2026年5月時点)し、各従業員のSaaS利用状況をリアルタイムで可視化します。SaaSのアカウント発行・削除の自動化とITデバイス管理を一つのプラットフォームで統合管理できる点が特長です。

参考:SaaS管理の基本と実践:初心者でもできる可視化と最適化の方法 - Go-to-IT
参考:SaaS管理ツールのメリットとデメリットは?導入時の比較ポイントも解説 | ジョーシス
テックスタックの整理にジョーシスをどう活用できるか、実際の操作画面でご確認いただけます。30分のオンラインデモで、御社の管理課題に合わせた活用イメージをご提案します。
整理プロジェクトを進める中で、いくつかの共通した失敗パターンに直面します。事前に把握しておくことで、リスクを最小化できます。
情シスが単独でSaaSの廃止・統合を決定すると、現場から強い反発を受けることがあります。「突然使えなくなった」「移行先のツールが不便」という不満が蓄積すると、その後の協力を得にくくなります。評価フェーズから各部門の代表者を巻き込み、判断の根拠と影響を丁寧に共有することが重要です。廃止候補のSaaSについては、廃止前に利用部門と代替ツールを確認する期間を設けます。
SaaSは多くが年間契約であり、解約の意思表示には事前通知期間(30〜90日)が設定されています。更新直後に解約を検討しても、次の更新まで費用が発生し続けます。台帳に契約更新日と解約通知の締切日を明記し、更新月の60〜90日前にアラートが出る仕組みをつくることで、このリスクを防げます。
一度整理しても、新しいSaaSが承認なく導入されると数ヶ月で元の状態に戻ります。テックスタック整理は、導入ガバナンスの整備とセットで実施することが前提です。整理プロジェクトの完了と同時に、承認フローと定期棚卸しの仕組みを動かし始めます。
手動で作成した台帳は、更新が滞ると情報が陳腐化し、信頼性が下がります。更新が止まると誰も参照しなくなるという悪循環に陥ります。台帳の更新担当者と更新タイミングを明確に決め、SaaS管理ツールによる自動化を組み合わせることで、台帳の鮮度を保ちます。
すべてのSaaSを同時に整理しようとすると、プロジェクトが長期化します。最初に優先順位をつけて着手することで、早期に成果を出しやすくなります。
アクティブユーザー率が低いSaaSを最初の対象とします。ログイン率が20%以下のサービスは、実態として利用されていない可能性が高く、解約または縮小の候補です。
次に、退職者のアカウントが残存しているSaaSを優先します。セキュリティリスクが直接的であるため、早急な対処が必要です。退職者リストと各SaaSのアカウント一覧を照合することで、すぐに特定できます。
機能が重複している複数のSaaSも早めに整理します。Slack・Teams・Chatworkが混在していたり、ZoomとGoogle MeetとWebexが並立していたりする場合は、統合の余地があります。
月額費用が高く、かつ利用実態が不明なSaaSも優先度が高くなります。費用対効果の観点から、利用状況を確認したうえで継続の是非を判断します。
テックスタック整理の成果を最大化する追加施策
テックスタックの整理が完了したら、さらに効果を高めるための追加施策を検討します。整理した状態を維持しながら、次の段階の最適化につなげるためのアプローチです。
継続利用と決定したSaaSについても、ライセンス数が適切かを確認します。実際のアクティブユーザー数に対してライセンスが過剰に契約されている場合、プランを見直すことでコストを削減できます。SaaS事業者によっては利用状況のレポートを提供しているため、それを活用します。
残ったSaaSが有効に活用されているかを定期的に確認します。高い費用を払っているにも関わらず基本機能しか使われていないケースは珍しくありません。社内勉強会や活用ガイドの配布を通じて、各SaaSの活用率を高めることも情シスの重要な役割です。
複数年にわたって利用しているSaaSについては、ベンダーに対してボリュームディスカウントや条件の再交渉を行う余地があります。利用状況のデータを持って交渉することで、コスト削減が実現できる場合があります。
参考:最適なSaaSテックスタックを構築する方法 | ジョーシス
ジョーシスは、SaaSとITデバイスを統合管理するプラットフォームです。テックスタックの整理とその後の継続的な管理を効率化する機能を備えています。
SaaSの自動検出と可視化では、社内で利用されているSaaSを自動的に検出し、各SaaSのアカウント数・利用状況・コストをダッシュボードで一元管理できます。
アカウントのライフサイクル管理では、従業員の入社・異動・退職に合わせて、紐づくSaaSアカウントの発行・変更・削除を自動化できます。退職者のアカウント放置というセキュリティリスクを根本から解消します。
350以上のSaaSアプリとの連携(31カテゴリ・2026年5月時点)により、主要なSaaSとのデータ連携を実現します。各SaaSの利用実績データをジョーシス上で確認でき、利用状況レポートの作成も容易になります。
シャドーITの検知機能では、情シスが把握していない野良SaaSを検出し、管理対象に組み込むかどうかを判断できます。
スキルマーケットを運営するココナラ株式会社では、上場後の急成長にともなってSaaSとITデバイスの管理が複雑化していました。ジョーシスの導入により、約80種類の社内SaaSを一元管理しながら、事例として年間約72万円のコスト削減と、入退社にともなうアカウント管理工数の約50%削減を実現しています(効果は個社の状況により異なります)。管理工数が下がったことで、情シス担当者が本来集中すべき業務に時間を使えるようになりました。

参考:SaaSの改廃作業や棚卸しの工数を削減|ココナラ株式会社の導入事例 | ジョーシス
参考:最適なSaaSテックスタックの構築方法 | ジョーシス
SaaSテックスタックの整理は、コスト削減やセキュリティリスク低減を即座に実現できる取り組みであると同時に、長期的なSaaSガバナンスの基盤を構築するための重要なプロセスです。
整理の手順を振り返ると、まず社内SaaSを漏れなく洗い出し台帳に情報を整理します。次に業務価値とコスト効率の2軸で継続・統合・廃止を判断し、計画的に実行します。そして整理後も新規SaaSの承認フローと定期的な棚卸しサイクルを維持することで、テックスタックの品質を保ち続けます。
一度整理するだけでは効果は一時的です。SaaS管理ツールを活用して自動化・継続化することで、情シス部門の負担を抑えながら最適なテックスタックを維持できます。まずは自社のSaaS全体像を把握するための棚卸しから着手してみてください。洗い出しの段階で、想定以上のSaaS数と管理上の課題が明らかになるはずです。
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関連記事:SaaS管理がビジネスにもたらす違い
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