
SaaS導入が日常化した現代の企業にとって、「自社のSaaSコストは適正なのか」「同業他社と比較して多いのか少ないのか」「削減の余地はどれくらいあるのか」といった問いは、経営判断の重要なテーマとなっています。一方で、SaaSコストの相場や業界ベンチマークが整理されたデータは限られており、判断材料を集めるのに苦労する組織が少なくありません。
実際には、SaaSコストは従業員1人あたりの年間支出、売上比率、IT予算比率といった複数の指標で評価でき、業界・規模・業務領域別の相場感が形成されつつあります。これらのベンチマークを踏まえて自社のポートフォリオを評価することで、削減の優先領域と交渉材料が明確になります。
SaaSコストの代表的な指標、業界・規模別の平均値、削減アプローチ、契約交渉のポイント、コスト最適化の5ステップを解説します。情シス部門のSaaS管理担当者、経理部門のIT予算責任者、SaaS選定プロジェクトのリーダーを主な対象とした内容です。
SaaSコストを評価する際は、絶対額だけでなく、組織規模や売上に対する比率といった相対指標を併用することで、客観的な分析が可能になります。代表的な指標を整理します。
従業員1人あたりの年間SaaS支出額を表す指標で、組織の規模によらず比較できる基本指標です。計算式は「年間SaaS総額 ÷ 従業員数」です。業界や規模により幅がありますが、中堅企業で年間20万〜50万円、SaaSヘビーユーザー組織では100万円を超えるケースもあります。
年間SaaS総額が売上に占める比率を表す指標で、組織のIT投資水準を測る上で有用です。計算式は「年間SaaS総額 ÷ 年間売上 × 100」で、製造業では0.3〜1%、IT・サービス業では1〜3%、SaaS企業では3〜5%が一般的です。
組織のIT予算全体に占めるSaaSコストの比率です。計算式は「年間SaaS総額 ÷ 年間IT予算 × 100」で、SaaSへのシフトが進んだ組織では50%を超えることもあります。社内システム中心の組織では10〜30%程度です。
契約しているライセンス数に対する実利用者数の比率です。計算式は「アクティブユーザー数 ÷ 契約ライセンス数 × 100」で、健全な組織では80%以上が目安です。50%を下回るSaaSは過剰契約の可能性が高く、削減候補となります。
似た機能を持つ複数のSaaSを契約している場合の、機能重複に起因するコストです。プロジェクト管理ツール、コミュニケーションツール、ファイル共有サービスなどで重複が発生しやすく、年間数百万円〜数千万円規模の削減余地が見つかるケースもあります。
SaaSコストは業界や組織規模により大きな違いがあります。代表的な相場感を整理することで、自社の位置を把握しやすくなります。なお、実際の数字は組織のSaaS活用度、業務形態、地域により異なるため、参考値として活用してください。
1人あたり年間20万〜40万円が一般的で、Microsoft 365、Google Workspace、Slack、Zoom、Salesforce、HubSpotなどの基本SaaS数十種類が中心です。事業の成長に合わせてSaaSが急速に増えるフェーズで、ガバナンスが追いつかずシャドーITが発生しやすい段階でもあります。
1人あたり年間30万〜60万円に増加し、業務領域別に専門SaaSが追加されます。営業支援(Salesforce、HubSpot)、人事(freee、SmartHR)、会計、プロジェクト管理(Asana、monday.com)、デザイン(Figma、Adobe Creative Cloud)など、契約数が50〜100種類に達する組織もあります。
1人あたり年間40万〜80万円となり、SaaS総額は数千万円〜数億円規模です。業務領域別の専門ツールに加え、エンタープライズ向け統合プラットフォーム(ServiceNow、Workday)、データ分析(Tableau、Snowflake)の導入が進みます。
1人あたり年間50万〜100万円が目安で、SaaS総額は数億円〜数十億円規模となります。グローバル展開、業界規制対応、高度なガバナンス機能を備えたエンタープライズ製品が中心です。
IT・テクノロジー業界では1人あたり年間80万〜150万円と最も高水準で、SaaS活用が業務の根幹に組み込まれています。金融業界では業界規制対応のセキュリティ・コンプライアンスSaaSが追加され、1人あたり50万〜100万円が相場です。製造業や小売業では、業務システム中心でSaaS比率が低く、1人あたり20万〜40万円が一般的です。医療業界では電子カルテやバックオフィスSaaSが中心で、業界規制への準拠コストが上乗せされます。
自社のSaaSコストが業界平均より高い場合、構造的な要因が背後にあるケースがほとんどです。代表的な4つの要因を整理し、対策の起点としてください。
シャドーITはまず"未管理契約の発見と把握"が論点です。
情シス部門の関与なく現場部門がSaaSを契約することで、機能重複や類似サービスの並行利用が発生します。数十のSaaSを使う組織では、数百万円〜数千万円規模の重複コストが日常化していることがあります。
退職者のアカウントが削除されないまま、ライセンス料が継続課金されるケースです。自動化されていない組織では、退職後3カ月〜1年も課金が継続する事例があります。年間で数十万円〜数百万円のロスにつながります。
実際の利用状況に対して過剰な機能を持つ上位プランを契約しているケースです。ベンダーの営業提案で導入したものの、実利用は基本機能に限定されている場合が典型例です。プランダウンで20〜40%のコスト削減が可能なケースもあります。
機能重複は、把握済みのSaaSを"標準化・統合"する観点から対処します。
似た機能を持つ複数SaaSを契約している場合、機能統合により重複コストを削減できます。たとえば、ビデオ会議(Zoom、Google Meet、Microsoft Teams)、ファイル共有(Box、Dropbox、Google Drive)、プロジェクト管理(Asana、monday.com、Notion)といった領域で、重複が発生しやすいです。
SaaSコストを削減するには、複数のアプローチを組み合わせることが効果的です。1つのアプローチでは効果が限定的でも、5つを並行することで20〜40%の削減が期待できるケースもあります。
利用率の低いライセンス、退職者・異動者の残存ライセンス、休眠アカウントを定期的に洗い出します。SaaS管理プラットフォームでの自動検出により、3カ月以上ログインのないアカウントを即時に特定できます。実利用者ベースに契約数を合わせるだけで、5〜15%の削減が期待できます。
各SaaSの利用機能を分析し、実利用に応じたプランダウンを実施します。エンタープライズプランから標準プランへの変更、ユーザー単位プランからチームプランへの統合など、契約形態の見直しで効果を出せます。
複数SaaSの機能重複を可視化し、組織標準ツールへの統合を進めます。コミュニケーション、プロジェクト管理、ファイル共有などの領域で、年間数百万円〜数千万円の削減事例が報告されています。標準化を進める際は、現場部門との対話と段階的な移行が成功の鍵です。
契約更新タイミングでベンダー交渉を行い、ディスカウント、ボリュームディスカウント、複数年契約による割引を引き出します。利用率データ、業界相場、競合製品の見積もりを根拠にすることで、5〜25%の値引きが実現できるケースがあります。
経理部門の請求書、クレジットカード明細、SaaS管理プラットフォームの自動検出を組み合わせ、未管理SaaSを特定します。業務継続性を確保しながら、組織標準ツールへの移行や正式契約への移管を進めます。
参考:SaaSコスト最適化のベストプラクティス|FinOps Foundation
SaaSベンダーとの交渉は、根拠のある材料を持つことで成功率が上がります。代表的な交渉材料を整理します。
実際の利用状況を示すデータ(アクティブユーザー数、最終ログイン日、機能利用率)は、最も強力な交渉材料です。「契約100ライセンスのうち実利用は60ライセンス」と提示することで、ライセンス数の見直しやディスカウントを引き出せます。
同業他社の相場、競合SaaSの見積もりは、価格交渉の客観的根拠となります。複数ベンダーから相見積もりを取得し、実勢価格として提示することで、交渉力が大きく高まります。
3年契約、5年契約と引き換えに大幅ディスカウント(10〜20%)を引き出す交渉も有効です。ただし、ベンダーの財務健全性、契約解除条件、SaaSの成熟度を慎重に評価する必要があります。
エンタープライズプランで提供される高度機能のうち、実際に使う機能と使わない機能を整理することで、プランダウン交渉の根拠となります。機能要件マトリクスを作成し、必要最小限のプラン選択を主張します。
事業成長に伴うライセンス追加、機能追加の見通しを示すことで、ベンダー側にも長期的なメリットを訴求できます。「来年に従業員2倍化、ライセンス2倍化を予定」といった情報は、即時値引きと将来契約の両方を引き出す材料です。
SaaSコスト最適化を体系的に進めるためには、5ステップで運用設計を進めることが効果的です。
組織が契約しているSaaSをすべて棚卸しし、契約数、年間費用、利用者一覧、最終ログイン日を一元化します。経理部門の請求書、クレジットカード明細、各部門ヒアリング、SaaS管理プラットフォームを総動員してデータを集約します。
ここまで紹介した1人あたりコスト、売上比率、IT予算比率といった指標で自社の位置を評価します。業界平均と比較し、コストが過剰な領域を特定します。
ライセンス監査、プラン最適化、機能重複統合、ベンダー交渉、シャドーIT統制の5つから、自社で実施可能なアプローチを選定します。優先順位は、効果が大きく実行コストが低いアプローチから着手します。
選定したアプローチを順次実行し、効果をKPIで測定します。削減金額、削減率、利用率改善、シャドーIT削減数といった指標で成果を可視化します。
四半期または半期ごとにSaaSポートフォリオを再評価し、新規契約・解約・プラン変更を反映します。SaaS管理プラットフォームを活用することで、継続的なモニタリングを最小工数で実現できます。
参考:ITサービスマネジメントの実装ガイド|itSMF Japan
SaaSコストと社内コミュニケーションで頻出する用語を整理します。
SaaSコストの最適化を継続的に実践したい情シス部門には、Josysが現実的な選択肢になります。Josysは、SaaS、デバイス、アカウントを統合管理するAI駆動型アイデンティティガバナンスプラットフォームで、契約しているSaaSの一覧、ライセンス利用率、未使用アカウント、重複機能、コスト分析を自動で可視化します。
国内外700社以上の導入実績があり、事例によっては、IT工数を最大50%、ITコストを最大75%削減した報告もあります。350以上のSaaSアプリと連携し、シャドーIT検知、退職者アカウント自動削除、未使用ライセンス特定など、SaaSコスト削減に直結する機能を網羅しています。経営層への報告ダッシュボードも備え、四半期ごとの最適化サイクルを支援します。
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SaaSコストの実務でよく寄せられる質問にお答えします。
ライセンス利用率の確認から始めます。利用率が50%を下回るSaaSが複数あれば、即座に削減候補となります。並行して、機能重複の有無、退職者残存ライセンスの有無を確認することで、初期の30〜60日で5〜20%の削減が可能になるケースが多いです。
経理部門の請求書、クレジットカード明細、SaaS管理プラットフォームの自動検出、各部門ヒアリングを組み合わせる必要があります。特にSaaS管理プラットフォームは、SSO連携やAPI連携で網羅的にSaaSを検出できるため、運用の中心となります。
利用率データ、業界相場、競合見積もり、複数年契約の意思の4点が主要な材料です。交渉は契約更新の3〜6カ月前から開始し、複数回のラウンドで段階的に条件を引き出すアプローチが効果的です。
機能要件、利用率、コスト、現場部門の使い慣れ度合いを総合的に評価し、組織標準を決めた上で段階的に統合します。一気に切り替えると現場の生産性が落ちるため、6カ月〜1年の移行期間を設けるのが一般的です。
組織の現状によります。未管理SaaSや休眠ライセンスが多い企業では、20〜40%の削減が目標になりうるケースもあります。初年度は10〜20%、3年累計で30〜40%といった段階的な目標設定が、現場の混乱を避けつつ効果を出す方法です。
SaaSコストは、相場と自社の位置関係を把握し、5つの削減アプローチを組み合わせることで、20〜40%の削減が期待できます。ここまで紹介した指標、業界別相場、削減ステップを起点に、自社のSaaSポートフォリオの最適化を進めてください。SaaSとデバイス、アカウントを横断管理したい中堅・準大企業の情シス部門には、Josysが現実的な選択肢となります。
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