
企業が利用するSaaSの数は、過去数年で急激に増えました。それにともなって、複数のSaaSベンダーとの関係を管理する業務の重要性も、情シス担当者の間で急速に認識されるようになっています。
ベンダー管理(ベンダーマネジメント)とは、企業が外部のソフトウェアサービス提供者(ベンダー)との関係を戦略的に管理する一連の活動を指します。SaaS以前は主に「システム開発の外注管理」を指す言葉でしたが、クラウドサービスが業務の中心に据えられた今日では意味が広がっています。具体的には、利用するSaaSサービスの契約・評価・セキュリティ審査・コスト管理・アカウント管理を包括的に行うことが現代のベンダー管理です。
情シス担当者にとって、これは単なる契約書の保管や更新日のカレンダー管理ではありません。セキュリティリスクの評価、サービスレベルの監視、ライセンス数の最適化、シャドーITの防止まで、IT部門の中核業務として位置づけられています。
国内の調査によれば、従業員規模の大きな企業では数十〜数百のSaaSを並行利用しているケースが珍しくありません。現場部門が情シスを介さずにSaaSを契約するシャドーITの横行も、管理の難しさに拍車をかけています。
こうした状況が重なることで、情シス担当者は次のような課題に直面します。
これらの課題を解決するために体系的なベンダー管理のプロセスを構築することが、現代の情シスに求められています。
参考:ones.com:ベンダー管理とは?IT企業が知るべき重要性とベストプラクティス
ベンダー管理が注目される理由は、利用数の増加だけではありません。セキュリティ・コスト・コンプライアンスのいずれの観点からも、管理不備が深刻なリスクに直結するためです。
SaaSを通じた情報漏えいやサイバー攻撃のリスクは年々高まっています。各SaaSベンダーのセキュリティ対策水準を定期的に評価しなければ、サプライチェーン攻撃の糸口になりかねません。経済産業省が2026年3月27日に公表した「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)に関する制度構築方針」では、2026年度末頃の制度開始を目指し、★3(専門家確認付き自己評価)・★4(第三者評価)の運用が先行する方針が示されており、取引先・ベンダーのセキュリティ対策状況を確認する動きが企業に広がっています。
SaaSでは「責任共有モデル」が採用されており、アプリケーション層以上のセキュリティは利用企業の責任とされます。データの暗号化・アクセス権限の設計・監査ログの保全といった対策は、ベンダーに委ねられるものではありません。
参考:経済産業省:「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針」を公表しました(2026年3月27日)
SaaSの費用は月額サブスクリプション形式のため、各サービスの課金が見えにくくなりがちです。利用していないユーザーのライセンス、機能が重複する複数サービスの並行契約、自動更新されたまま放置されているプランなど、気づかぬうちに無駄なコストが積み重なります。
ジョーシスを導入したアンカー・ジャパンは管理コストを75%削減し、メリービズは年間約600万円のコスト削減を実現しています(効果は個社の状況により異なります)。適切なベンダー管理がコスト削減につながり得ることを示す事例です。
参考:ジョーシス導入事例:Ankerグループがコストを75%削減した方法
上場企業や金融・医療・官公庁と取引する企業では、利用するSaaSのセキュリティ基準・データ保存場所・個人情報の取り扱いが監査対象になります。ISO 27001やSOX法対応において、ベンダーのセキュリティ評価記録を整備しておくことは必須の要件です。ベンダー管理の記録が不十分なまま監査を受けると、是正勧告のリスクがあります。
体系的なベンダー管理は、一連のプロセスとして実施することが重要です。以下の6ステップが、情シス担当者が実務で使える標準的なフレームワークです。
ベンダー管理の出発点は、自社で利用しているSaaSの全量把握です。情シスが正式に把握しているサービスだけでなく、現場部門が独自に契約しているシャドーITも含めて一元的にリスト化します。
台帳に記録すべき主な項目は次のとおりです。
スプレッドシートで台帳を作成するとメンテナンスが続かないことが多く、担当者が変わると情報がすぐ陳腐化します。SaaS管理ツールを活用すれば、ブラウザ拡張機能やIDプロバイダーとの連携によって利用状況を自動で可視化でき、台帳の維持コストを大幅に削減できます。
SaaS台帳が整ったら、各ベンダーのリスク評価を実施します。評価の主要観点は「セキュリティ」「データプライバシー」「サービス継続性」の3軸です。
セキュリティ評価では、ベンダーの認証・報告書(ISO 27001認証、SOC 2 Type II報告書、CSマーク等)を確認します。SOC 2 Type IIは「認証」ではなく一定期間の統制運用状況を第三者が検証した監査報告書であるため、有無だけでなく対象範囲・監査期間・例外事項まで確認することが重要です。あわせて、定期的な第三者監査の実施状況、ペネトレーションテストの実施有無、インシデント対応体制も確認対象です。
データプライバシーの観点では、個人情報保護法・GDPRへの対応状況、データの保存場所と保存期間、サービス終了時のデータ返却・削除ポリシーを確認します。海外ベンダーの場合はデータが日本国外に保存されるケースがあるため、自社のポリシーとの整合を精査する必要があります。
サービス継続性については、SLAの稼働率保証水準、過去のインシデント履歴、障害発生時の補償内容を確認します。稼働率99.9%では月間で約43分、99.99%では月間で約4分が許容ダウンタイムの目安となり、両者で約10倍の差があります。業務のクリティカル度に応じた要件設定が必要です。
リスク評価の結果をふまえ、ベンダーとの契約交渉を行います。SaaS契約で情シスが特に注意すべきポイントを整理します。
データの権利と返却:サービスを解約した後に、自社データを適切な形式でエクスポートできるかを確認します。ベンダーロックインを防ぐために、データポータビリティの条項を契約に明記することが重要です。
価格変更・仕様変更の通知:ベンダー都合での料金値上げや機能変更・廃止がある場合の通知期間を確認します。国際的なSaaSベンダーでは突然の価格改定が行われることがあるため、変更通知の義務化を契約に盛り込むことが望ましいです。
SLAと補償内容:稼働率の保証水準と、達成できなかった場合のペナルティ(クレジット補償等)を明確にします。SLAが「努力目標」として設定されているベンダーには注意が必要です。
セキュリティインシデント時の通知義務:データ漏えいやサイバー攻撃が発生した場合に何日以内に通知を受けられるかを確認します。日本の個人情報保護法では、一定の漏えい等が発生した場合に個人情報保護委員会への報告(速報は概ね3〜5日以内、確報は原則30日以内、不正アクセス等による場合は60日以内)が事業者に義務づけられています。SaaSをデータの取扱いを委託している場合、委託元としての報告義務を果たすには、ベンダーから自社への通知が十分早く行われる体制かを契約で確認しておく必要があります。なお「72時間以内の通知」はEUのGDPRにおける監督機関への通知基準であり、国内法とは枠組みが異なる点に注意してください。
契約後も継続的にライセンス数とコストを最適化することが、ベンダー管理の重要な役割です。特に次の3点を定期的にチェックします。
未使用ライセンスの洗い出し:一定期間(例:90日)ログインがないユーザーのライセンスを特定し、解約・ダウングレードを検討します。全従業員にプレミアムプランを割り当てる必要はなく、利用実態に応じたプラン見直しでコストを削減できます。
重複サービスの統廃合:ビデオ会議ツールやドキュメント管理ツールなど、類似した機能を持つSaaSが複数導入されているケースは珍しくありません。利用実態を可視化したうえで機能が重複するサービスを整理することで、コストと管理工数の両方を削減できます。
更新交渉の戦略化:契約更新の数か月前から準備を始めることで、より有利な条件を引き出せます。利用実績データを根拠にボリュームディスカウントや長期契約割引を交渉するほか、競合ベンダーの見積もりを取得することで交渉力を高めることができます。
SaaSベンダー管理の実務上、特に重要なのがアカウントのライフサイクル管理です。入社・異動・退職という従業員のライフサイクルに合わせ、SaaSアカウントを適切にプロビジョニング(付与)・デプロビジョニング(削除)することが求められます。
入社時には、業務に必要なSaaSアカウントをまとめて付与する仕組みを構築します。手作業では漏れや遅延が生じやすいため、人事システム(HRIS)とSaaS管理ツールを連携させてアカウント発行を自動化することが理想です。
退職時のアカウント削除は、セキュリティ上の最重要タスクです。退職者のアカウントが残存すると、不正アクセスのリスクだけでなくライセンス費用の無駄も生じます。ジョーシスのAccess Automationモジュールでは、退職処理と連動した350以上のSaaSアプリの一括アカウント削除を自動化できます。
ジョーシスで入退社のアカウント管理を自動化
入退社・異動のたびに発生するSaaSアカウントの付与・削除作業を、ジョーシスが自動化します。人事システムと連携し、350以上のSaaSアプリを一元管理。事例によってはIT工数を最大50%削減したケースがあり、効果は個社の状況により異なります。
ベンダーとの関係は、契約して終わりではありません。定期的なパフォーマンスレビューを実施し、SLAの達成状況・サポート品質・機能アップデートの内容を評価することが重要です。
レビューの頻度は、ビジネスクリティカルなSaaSは四半期ごと、業務補助的なSaaSは年に1回程度が目安です。レビュー結果を記録として残すことで、次回の契約更新交渉や他ベンダーへの移行判断の根拠として活用できます。
ベンダー管理に取り組む情シス担当者が実務でよく直面する失敗パターンを整理します。事前に把握しておくことで、同じ轍を踏まずに済みます。
スプレッドシートで作成したSaaS台帳は、作成直後こそ整理されていますが、担当者が変わったり新しいSaaSの追加が反映されなかったりすることで、半年後には陳腐化していることが多いです。SaaS管理ツールを使って利用状況を自動で可視化する仕組みを導入することで、台帳の維持コストを大幅に削減できます。
SaaSの年間契約は、更新日の一定期間前(30〜90日前)に解約通知をしなければ自動更新されるものが少なくありません。更新日の管理が属人化していると、担当者の退職や異動に伴って通知を見逃し、不要なサービスに費用を払い続けることになります。契約更新カレンダーをチームで共有し、アラートを設定することが基本的な対策です。
現場部門が情シスを経由せずにSaaSを導入するシャドーITは、ベンダー管理の最大の盲点です。承認されていないSaaSには、自社のセキュリティポリシーを満たしていないものが含まれている可能性があります。クレジットカード明細の定期チェックや、ブラウザ拡張機能による通信監視ツールを活用してシャドーITを早期発見する体制が必要です。
新規SaaS導入時にリスク評価シートを作成しても、定期的なレビューが行われず評価が形骸化するケースがあります。ベンダーのセキュリティ認証には有効期限があるため、年に一度は再評価を実施することが重要です。
退職者のSaaSアカウントを削除し忘れると、元従業員が社内情報にアクセスし続けるリスクが生じます。特に情シスが把握していないシャドーITのアカウントは削除対象から抜け落ちやすいため、退職処理チェックリストの整備と、可能であれば自動削除の仕組みを導入することが不可欠です。
これまで説明したプロセスを手動で実施しようとすると、情シス担当者に多大な工数がかかります。SaaS管理ツールを活用することで、自動化・効率化できる業務を大幅に増やすことができます。
ベンダー管理プロセスとSaaS管理ツールの機能対応を整理します。
ジョーシスは、SaaSとデバイスを一元管理するプラットフォームとして、国内外1,000社以上に導入されています。ベンダー管理に関連する主要機能は次のとおりです。
SaaS Discovery(シャドーIT検出):ブラウザ拡張機能やIDプロバイダーとのログ連携により、情シスが把握していない未承認SaaSを自動で検出します。承認フローとの連携によってシャドーITを正規の管理下に置くプロセスを整備できます。
SaaS Insights(利用状況分析):各SaaSのユーザーごとの利用状況を可視化し、未使用ライセンスの特定と削減提案を自動で行います。ライセンス最適化に向けた根拠データをリアルタイムで確認できます。
Access Automation(入退社自動化):人事システムとの連携により、入社・異動・退職のタイミングで350以上のSaaSアプリのアカウントを自動的にプロビジョニング・デプロビジョニングします。退職者アカウントの削除漏れをゼロにします。
AI Integration Builder:ノーコードでカスタム連携フローを構築できます。自社固有の承認ワークフローやアカウント管理ルールをプログラミング不要で設定できます。
Sales Markerはジョーシス導入後にIT管理業務の時間を50%以上削減し、M&A Cloudは年間約200時間の削減を実現しました(効果は個社の状況により異なります)。SaaS管理の工数削減は、情シス担当者がより戦略的な業務に集中できる環境をつくります。
ジョーシスのデモで実際の管理画面を確認する
SaaS管理・ベンダー管理の効率化を実際の画面でご確認いただけます。自社の課題に合わせて専任担当者がご案内します。
参考:SmartHR:SaaS管理ツールとは?メリット・選び方・導入のコツを解説
SaaSを安全に利用するためには、ベンダーとの「責任共有モデル」を正確に理解することが前提になります。インフラ層・プラットフォーム層のセキュリティはベンダーが担いますが、アプリケーション層以上(データの取り扱い・アクセス権限設計・設定ミスへの対応)は利用企業の責任です。
アクセス権限の設計と管理:各SaaSで「誰が何にアクセスできるか」を最小権限の原則に従って設計します。業務上必要のない権限を広く付与することは情報漏えいリスクを高めます。権限の棚卸しを定期的に実施し、不要な権限を速やかに削除することが重要です。
多要素認証(MFA)の強制:すべてのSaaSでMFAを必須化することで、パスワード漏えいに起因する不正アクセスリスクを大幅に低減できます。ベンダーがMFAをサポートしているか、SSOとの連携が可能かを確認してください。
監査ログの保全と確認:各SaaSの操作ログを定期的に確認することで、不審なアクセスや設定変更を早期に検知できます。ログの保存期間はSaaS側の設定に依存するため、業務要件に合った保存期間を事前に確認することが必要です。
データの暗号化:保存時・転送時のデータ暗号化が適切に行われているかを確認します。特に機密情報を扱うSaaSでは、暗号化方式とキー管理の仕組みをベンダーに確認してください。
新規SaaS導入時に確認すべきセキュリティ評価項目をまとめます。
このチェックリストを社内の標準評価フォームとして整備しておくことで、新規SaaS導入時の評価を効率的かつ漏れなく実施できます。
ベンダー管理は一度に完成するものではありません。現状の課題を整理し、段階的に改善を進めることが現実的なアプローチです。
まず取り組むべきは、自社が利用しているSaaSの全量把握です。スプレッドシートや既存の申請記録を棚卸しし、台帳を整備するところからスタートします。完璧を目指すのではなく、まず情シスが把握しているSaaSをリストアップすることを優先します。
台帳が整ったら、SaaSの新規申請・評価・承認のフローを標準化します。現場部門が勝手にSaaSを導入できないよう申請ルートを整備し、リスク評価の基準を明文化します。この段階でシャドーITの検出ツールを導入すると、把握漏れを防ぐ効果があります。
手動で行っていたアカウント管理・ライセンス棚卸し・契約更新アラートを自動化します。SaaS管理ツールを人事システムと連携させることで、入退社のアカウント操作が自動化され、担当者の工数を大幅に削減できます。
ベンダー管理の仕組みが整ったら、データを活用した継続的な最適化フェーズに入ります。利用率レポートをもとにライセンス数の調整をベンダーと交渉し、ベンダーポートフォリオ全体を見直してコスト最適化を図ります。定期的なセキュリティ評価とパフォーマンスレビューを通じて、ベンダーとの関係を戦略的に管理することが目標です。
SaaS管理の実務を担う組織体制を整備することも、ベンダー管理成功の重要な要素です。
小規模な情シス組織では一人の担当者が複数の役割を兼務するケースも多いです。その場合でも、役割と手順を明文化しておくことで担当者交代時の引き継ぎを円滑にできます。
SaaSのベンダー管理に関する社内ポリシーには、最低限以下の事項を盛り込みます。
ベンダー管理とSaaS管理の違いを整理する
「ベンダー管理」と「SaaS管理」は混同されやすいですが、整理すると次のように捉えられます。
実際には、この2つは表裏一体の業務です。SaaS管理ツールはどちらのニーズにも対応しており、社内向けの利用管理と外向きのベンダー関係管理を統合的に実施することが、IT部門の効率的な運営につながります。
SaaS管理・ベンダー管理をジョーシスで一元化する
350以上のSaaSアプリとの連携、シャドーIT検出、ライセンス最適化、入退社自動化をひとつのプラットフォームで実現。まずは資料をご覧ください。
SaaSのベンダー管理は、契約書の保管や更新日の管理といった事務的な作業ではありません。セキュリティリスクを制御し、コストを最適化し、組織全体のIT資産を戦略的に運用するための中核業務として捉え直すことが大切です。
本記事で解説した6つのプロセス(棚卸し・リスク評価・契約交渉・ライセンス最適化・アカウント管理・パフォーマンスレビュー)を体系的に実施することで、SaaSのベンダー管理を組織の強みに変えられます。SaaS管理ツールの力を借りることで、日常的な手作業を削減しながら管理の精度と網羅性を高めることができます。
自社のSaaS管理に課題を感じている情シス担当者は、まず台帳の整備から始め、段階的に管理の成熟度を高めていくことをお勧めします。
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