
今回は「上司・経営者に信頼される情シスになるためのコミュニケーション術」をテーマに、株式会社MOVEDの小林さんを迎えてお話しいただきます。
情シスの業務は、組織や会社内でのコミュニケーションのうえで成り立っているといっても過言ではありません。施策を推進するときなど、上司や経営者とのコミュニケーションに関して悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。
本記事は、前編と後編の2回に分けて紹介します。前編では、コミュニケーションの基礎となる要素や、応用方法を中心に取り上げます。後編では、タイプ別のコミュニケーション術などのディスカッション、読者からのQ&Aをお届けします。

<スピーカー>
小林 信也|株式会社MOVED プロ雑用・働き方デザインチーム事業責任者
まずはじめに、信頼を得るためのコミュニケーションについて、解説いただきました。

小林さん:信頼を得るために必要なのは、「素晴らしいプレゼンテーションや提案」や「飲みに行って仲良くなること」ということを思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、これは違います。
では、どうすれば信頼を得ることができるのでしょうか。それを知るためには、そもそも「信頼」とはどのようなものなのかを理解しておく必要があります。

小林さん:信頼は大きく2種類に分けられます。1つ目は「能力への信頼」、2つ目が「人格への信頼」です。
まず「能力への信頼」というのは仕事の成果で決まり、一方で「人格への信頼」はコミュニケーションで決まります。これは、どちらが欠けても信頼されないということなんです。

今回は、人格への信頼に対してのコミュニケーションを掘り下げます。
情報システムを理解し、信頼される情シスになるには、IDやアカウントの基本的な理解も不可欠です。基礎知識としてそもそもアイデンティティとは?ID・アカウントとの違いは?-デジタルアイデンティティのやさしい教科書もあわせて参考にしてください。

信頼を得るためにポイントとなるのが、コミュニケーションスキル。ここでは、コミュニケーションを構成する3つの要素である、「発信力」「傾聴力」「質問力」について、それぞれ解説いただきました。

小林さん:まずは、「発信力」です。
発信力には、段階があります。普段、皆さんは、言葉を発してコミュニケーションをとったり、テキストでコミュニケーションをとったりしていると思います。
ほとんどの方は、上記の図で見ると「話す」の段階で終わってしまっています。実は「話す」は、発信力としては弱いんです。右端の「伝える」までいかないと発信力としては足りません。

小林さん:ここで少し話を変えて説明します。喜ばれる贈り物は「自分が贈りたいもの」「相手が欲しいもの」のどちらでしょうか?聞かずともわかりますが、「相手が欲しいもの」を送るほうが喜ばれるに決まっていますよね。
実は「伝える」ことも同じです。「自分が話したいこと」は「話す」に当てはまりますが、一方で「伝える」は「相手が聞きたいこと」「相手が欲していること」を与えることをいいます。つまり「伝えることは相手への贈り物」なんです。
そこで、「何を話すか」だけではなく、「どう話すか」が非常に重要になってきます。発信力とは、相手に何を(what)どのようにして(how)プレゼントするかを考え、実行することです。
小林さん:次に、傾聴力です。文化庁が行った調査によると「人は会話しているとき、その内容の約60%は聞いていない」という結果が出たそうです。年代によっても、多少の数値のばらつきはありますが、大体半分以上は話を聞いていないと出ています。

人間の特性としては相手に話したいものの、人の話を聞けないんですね。皆さんにも、長い話を聞いていると別のことを考えてしまって、話を聞けないといった経験があるのではないでしょうか。
つまり、人間は自分の話を聞いてくれる人のことが大好きなんです。まず、信頼関係を築く第一歩としては、相手の話を聞くことがとても重要なんです。傾聴力というのは、自分の考えを捨てて、相手の考えや想いを受け入れることです。
小林さん:3つ目の質問力を解説します。実は、3要素のなかでも1番難しいのが「質問力」です。

「質問力」で検索してみると、上記のように出てきます。難しくて結局何をしたらよいのかわからず、迷ってしまいます。今回は検索して出てくる一般論や技術論は、いったん忘れて問題ありません。

質問するためには、準備が必要です。まずは「発信力の準備」と「傾聴力の基礎」を先に学んでいきましょう。それぞれコツは2つだけなので、是非覚えていただければと思います。

質問力を鍛えるには、「発信力の準備」が必要だと小林さんは言います。発信力の準備には、以下2つのステップがあります。
発信力で「自分を知る」と聞いて、疑問に思う方もいるかもしれません。それぞれのステップについて解説していただきました。

小林さん:自分は何が好きで、普段どういった発信をしているのかを知るためには、まず自分のタイプを知ることが非常に重要です。
さまざまな調査方法がありますが、私がおすすめするのは「ソーシャルタイプ診断」です。4つの区分けでビジネスタイプを診断するものです。是非、自分がどのタイプに当てはまるか覚えておいてもらえるとよいかと思います。ちなみに私は、ガチガチの理論派で「アナリティカル」です。

先ほど「発信力」のなかで、上記の図のように、話すことは「自分が話したいこと」で、伝えるためには「相手が聞きたいこと」を知ることが必要だとお伝えしました。自分が普段どのように他者とコミュニケーションを取っているのか、それが他者からみるとどのようなイメージになるのかを客観視することが、伝えるための最初の一歩です。

小林さん:次のステップは、自分の印象を整えることです。上記にあるように「メラビアンの法則」というものがあります。
メラビアンの法則は、人がコミュニケーションから視覚や聴覚、言語から情報を受け取るときに情報に矛盾があった場合、どこから得る情報を最も信頼するかというものです。メラビアンの法則によると、視覚情報が1番信じられています。次に聴覚です。

人がコミュニケーションを取るときは言語については気を遣いますが、自分の姿勢や表情、目線、話し方、振る舞いなど非言語情報(NON-VERBAL)には無頓着になっていないでしょうか。
姿勢が猫背になっていたり、夢中で話していると無表情で怖い顔になっていたり、目線があちこち飛んでしまう方もいます。自分が相手からどのように見えているのかをしっかり意識することは、発信力の準備として大切なことなんです。
発信する言語情報と相手から見えている自分の印象を一致させることが、発信力の基礎として重要なことです。

質問力を鍛えるためのもう一つのポイントが「傾聴力」だと小林さんは言います。傾聴の基礎には、以下の2つのステップがあります。
それぞれのステップについて、具体例を交えて解説いただきました。

小林さん:関心を持つというのは、上記のように相手の話に「興味を持つ」「共感する」の2つに分けられます。
先ほど「人の話を半分以上聞いていない」という調査結果を紹介したように、基本的に人は、興味のない話は全然耳に入ってこないんです。そのため、相手の話に興味を持つことが、傾聴におけるステップ1になります。
相手の話に興味を持つためには、まずは自分の視点をすべて手放しましょう。自分の視点とは、自分が話したいことのことです。

小林さん:ステップ2は、相づちを打つことです。相づちの語源は、刀鍛冶で鉄をリズムよく叩いたことにあります。相づちが合わないと全然話が聞けないんですよ。
相づちの効果としては、自分が話を聞いている話し手に安心感を与えることと、会話のリズムを調整することです。これができるとできないとでは、会話の円滑さがまったく違います。

小林さん:ここで、おすすめの相づち4選をご紹介します。
情シスの方に、特にやっていただきたいのが「リアクション」です。なかでも男性は、人の話を聞いているときに無表情で動かない傾向にあります。頷いているつもりでも、リアクションが小さいと、相手にはほとんど見えていないかもしれません。いつもよりリアクションを大きめに「あ~なるほど!」と動いてもらうだけでも、相手のリズムを調整できます。
次におすすめなのが「単語を拾う」です。話すときには、話したいことを無意識に繰り返したり、単語を強調したりすることがあるんです。
繰り返し話していることや、強調している単語を拾って返してあげることは、傾聴力では重要になります。高度なテクニックとして、ミラーリングやバックトラッキングなどありますが、まずは単語を拾うだけでも会話のリズムを調整できます。
また「トークのさしすせそ」は、「さすが」「すごい」などのエッセンスを会話のなかに入れる相づちで、これがあるだけで相手が気持ちよく話すことができます。

傾聴力というのは、関心を持って、相づちを打つことで相手が自ら話すようにしてあげることです。この2つのステップが傾聴力の基礎のコツです。

発信力と傾聴力について解説いただいたところで、あらためて質問力を取り上げます。質問といっても、何を質問すればコミュニケーションがうまくいくのかと疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
ここでは、今回のテーマである「信頼されるためのコミュニケーション術」につながる内容に要点を絞り解説いただきます。

小林さん:先ほど、伝えるとは相手への贈り物とお伝えしました。伝えるためには、相手が聞きたいことを知る必要があるんです。例えばプレゼントを贈るときも、相手が何を欲しているのか確認しないまま選ぶのは難しいじゃないですか。

つまり質問というのは、発信力と傾聴力の間を往復させるものなんです。質問をすることによって自分の発信をし、相手から情報を引き出します。そのため、コミュニケーションを活発化するために必要なものといえます。

小林さん:質問することによって出てくる効果は、主に以下の2つです。
相手の意見や体験など、聞かなければ出てこなかったような意見が言語化されることが、質問の効果の1つです。
また、相手に対して「いわれてみればそうだ」と新しい気付きや、発見を与えてくれることも質問の効果といえます。
今回のテーマは「上司・経営者に信頼される情シスになるためには、どうすべきか?」です。ここまでは、コミュニケーションの基礎として身につけておきたい話を説明いただきました。
ここからはコミュニケーションの基本を、情シスの仕事に応用して解説いただきましょう。

小林さん:あなたの提案が通らないわけは、自分が提案したいことしか提案していないからです。上司や経営者から、あなた自身がどのくらい期待されているのか、何を求められているのかを正しく理解しているでしょうか。また、それらを相手から引き出す活動ができていますかという話なんですね。
上司や経営者が、あなたに期待していることを言語化できているとは限りません。特に上司や経営者は、たくさんの人を見なければいけませんし、取り合わなければいけない問題も数多くあるので、必ずしもあなたに対してクリティカルな言葉を出してくれるとは限らないんです。
上司や経営者は、あなたの保護者ではありません。これは重要です。まずは、上司や経営者に求める前に、彼らが何を求めているのかを理解することが、提案の前に必要な準備になります。

小林さん:提案の前には、どういう立場の人で、どういう責任を持っているのか、組織内でどういう人間関係があるのか、どういった課題を抱えているのかなど、その人を知ってください。
例えば、上司が経営者から求められていることや、経営者がステークホルダーから求められていることなどです。こういうことを知っておかないと、そもそも提案として成り立たないですね。
いわれると「そのとおり」だと感じている方も多いかもしれませんが、「できていますか?」という話なんです。相手を知ることはとても重要です。

小林さん:これまで説明してきた発信力と傾聴力の間をつなぐには、どのような質問が効果的なのでしょうか。ここでは、質問のテクニックを2つご紹介します。

相手の話を整理するテクニックとして、質問の仕方が2種類あります。質問は、「確認」と「深掘」の2種類を意識してください。
確認の質問は、相手の話に対して自分の理解が合っているのかを確認することです。「私はこう理解したのですが、合っていますか?」と確認するような質問のことで、相手の話を事実か、解釈かで切り分けることができます。
そして深掘りの質問については、相手の話をより理解するために、具体的な情報をさらに引き出すための質問ですね。これで話を深掘りすることで新しい事実や別の解釈を引っぱり出せます。

事実と解釈を切り分けて、整理してコミュニケーションを取ることで、お互いの認識がだんだんと合ってきます。この認識合わせが、コミュニケーションの1番のポイントです。
ここが普段からズレている人の提案は、なかなか受け入れられないという現実があります。普段のコミュニケーションのなかで、情報を整理してあげましょう。

小林さん:上司や経営者と話をするときには、事実と解釈を整理して、言語化してあげる質問を投げかけるよう心がけてください。相手が何を求めているのか、そしてどのような課題を抱えているのかをスルスルと引き出せるようになってきます。
期待されていることや、求められていることがわかり、言語化してお互いの認識が合えば、あとは仕事のなかで成果を出すだけです。「信頼とはなにか」で解説した「能力への信頼」を高めてください。「能力の信頼」と「コミュニケーションの信頼」が両方揃ったら、あとは信頼が蓄積されていくでしょう。
信頼が貯まれば、あなたの提案も通りやすくなります。相手が求めていることを提案しているだけなので、受け入れられない訳がありません。日々のコミュニケーションの中で関係を深めることが、上司や経営者から信頼を得るコツです。
信頼されるコミュニケーション術を確認できたところで、やってしまいがちな信頼につながらないダメなコミュニケーションについても解説していただきました。

小林さん:まずは、善意の安売りです。ギバー、テイカー、マッチャーという分析がありますが、ギバーは惜しみなく与える人というポジションです。
ギバーのなかには、自己犠牲型と他者思考型があって、ダメなのは自己犠牲型です。「善意でやってあげたつもりが、いつの間にか仕事になってしまった……」という方もいるかもしれません。自己犠牲型のギバーは1番成果が出ないといわれています。

小林さん:なぜ善意の安売りがダメなのかというと、善意は一過性で持続しないんです。善意でやっていたつもりなのに、いつもやっていると相手からいつの間にか仕事として認識されてしまいます。
そもそも仕事は善意で行われません。業務時間中に給料をもらいながら、善意でボランティアをしているのですか?ということです。善意での仕事は、中長期的に見ると公共の利益を損なう振る舞いになります。

善意の人はいい人なのですが、自分の利益を最優先するテイカーと呼ばれる人に取っては都合のよい人で、また多くの人にとってもどうでもいい人なんです。いい人は自分では信頼を得ていると思っていますが、実際は信頼が貯まっていないんです。

小林さん:仕事は善意の活動ではなく、利他的な活動で成り立っています。ですから、自分の活動が利他的であるのか、善意なのかの区別はしっかりつけましょう。
自己犠牲ではなく利他的な思考であれば、善意は安売りしなければいいんです。自分を助けてくれている人や会社で重要な人など「ここぞ!」というときに、手を差し伸べてください。自分がいい人になりたいからといって、自己犠牲はしないようにしましょう。
日常的に従業員からさまざまな問い合わせをもらい、対応することが多い情シスですが、問い合わせに対するコミュニケーション方法や、優先順位の付け方などに迷う方もいるでしょう。読者からの質問にお答えいただきました。
―― 情シスの方は、従業員からちょっとした相談をもらう機会が多いと思います。従業員からたくさんの問い合わせがくる場合は、どのような対応をするのがよいでしょうか?
小林さん:善意の行動というのは、相手と自分の1対1の関係しかみていないんですよ。一方で利他的行動というのは、集団や組織を全体で見渡したときに、それをするべきかを考えます。
組織利益につながることは積極的にやるべきだと思います。例えば、Aさん、BさんCさんから依頼があって、割り込みでDさんから依頼があったとします。困っているからといってDさんを先に助けてしまうと、Aさん、Bさん、Cさんには不公平な結果を与えます。それが1度だけであれば問題ありませんが、大体テイカーの人は、次も依頼して来ます。2度目は絶対に断りましょう。
―― Dさんのような方に対応してしまうと、本来会社の利益につながるはずだった業務対応ができなくなるデメリットもありますね。
小林さん:スケジュールを組むときに、自分が受けられる依頼の量を把握できていないケースもあります。例えば1ヵ月、1週間、1日に何件くらいの問い合わせを受けているのかを定量的に把握できていれば、それを盛り込んでスケジューリングできるかと思います。
しかしいい人はそれを度外視して、主務のところで最短スケジュールを組んでしまい、自分のリソースを100%使い切ってしまう場合が多いんですよね。
―― ある意味自己犠牲型の方は、相手から「ありがとう」といわれることが、喜びになるのかもしれません。しかし、自分のことをもっと大切にしたほうがいいですね。
小林さん:自分と周囲ですね。相手から「ありがとう」とお礼をいわれるのは、自分だけの利益です。自分のモチベーションを高めるために、「ありがとう」と感謝されたいのは自然なことなので否定はしません。ただし、自分が喜んだことで組織利益に適うのかといった話ですよね。
―― 少なくとも会社で働いている限りにおいては、組織や与えられているミッションを主務として考えるということですね。
小林さん:そうですね。それも含めてコミュニケーションだと思うんです。
―― コミュニケーションでいうと、仕事を断らなければいけない場面もあります。断り方によってはハレーションが生まれてしまうと思いますが、断るときのコミュニケーション方法はありますか?
小林さん:丁寧な説明しかないですね。基本的に、なぜ仕事を断らなければいけないかを懇切丁寧に説明します。周囲の人にもわかるように説明してあげることも大事です。
さらに具体的なタイプ別のコミュニケーション術や読者からのQ&Aを知りたい方は、続編の上司・経営者に信頼される情シスになるためのコミュニケーション術~信頼を得るためのアクションや信頼につながらないダメなコミュニケーションとは~(後編)もぜひご覧ください。
情シスの業務を行ううえで、上司や経営者からの信頼は欠かせません。今回は、信頼されるされるコミュニケーション術を小林さんに詳しく解説いただきました。後編のディスカッションでは、コミュニケーション術の実践方法を中心に紹介します。
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