
テレワークの普及とSaaSの急拡大によって、「社内ネットワークの内側は安全」という前提が崩れました。かつてはファイアウォールで社内外を分離する境界型セキュリティが主流でしたが、クラウドとモバイルが業務の中心になった今、その考え方は通用しません。
「概念は知っているが、何から手をつければいいかわからない」「SaaS環境でどう実装すればいいか見当がつかない」——そうした情シス担当者の声は根強く残っています。実際、ゼロトラストは理念として広く知られている一方で、具体的な実装イメージが持ちにくいという課題があります。
本記事では、ゼロトラストセキュリティの基本概念・7原則・SaaS環境での実装ステップを体系的に解説します。ゼロトラストを自社に取り入れたい情シス担当者・セキュリティ責任者の方に向けた内容です。
ゼロトラストセキュリティとは、「何も信頼しない、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」を基本原則とするセキュリティモデルです。社内ネットワーク内にいるユーザーやデバイスであっても、デフォルトでは信頼せず、すべてのアクセスを継続的に検証します。
境界型セキュリティは、社内ネットワークと外部を明確に分け、内側にいるユーザーは「信頼できる」とみなす考え方に基づいていました。ファイアウォールやVPNがその代表的な手段です。
この方式には構造的な限界があります。SaaSの普及によって業務データがクラウド上に分散し、社員はオフィス外からもアクセスします。「内側」と「外側」の境界自体が意味をなさなくなり、一度内側に侵入されると攻撃者が自由に動き回れてしまう脆弱性があります。
ゼロトラストはこの前提を根本から覆します。場所やネットワークに関わらず、すべてのユーザー・デバイス・アプリケーションを常に疑い、アクセスのたびに検証します。
ゼロトラストという概念は2010年にフォレスター・リサーチが提唱し、2020年代に入って急速に普及しました。日本でも経済産業省やIPAがゼロトラストの重要性を認め、ガイドラインの策定を進めています。
普及の背景には3つの変化があります。リモートワークの定着により「社内ネットワーク内=安全」という前提が崩れたこと。SaaSとクラウドの普及によって業務データが分散し、境界型の一括管理が機能しなくなったこと。そして標的型攻撃やランサムウェアが「ラテラルムーブメント(内部の横断移動)」を多用するようになり、境界を突破された後の被害拡大を防ぐ手段として、ゼロトラストが有効だとわかってきたことです。
米国国立標準技術研究所(NIST)は、ゼロトラストの基本原則をSP 800-207で定義しています。この7原則がゼロトラスト実装の基盤となります。7つを一度に実装する必要はなく、自社の状況に合わせて段階的に取り組むことが現実的です。

社内サーバー・クラウドストレージ・SaaSアプリケーション・IoTデバイスなど、組織が保有するあらゆる情報資産をリソースとして扱います。「社内」「社外」という区分ではなく、リソース単位でアクセス制御を設計します。この視点の転換が、ゼロトラスト設計の出発点です。
社内LANを経由する通信であっても、外部インターネット経由であっても、すべての通信を暗号化の対象とします。「社内だから安全」という発想を排除し、あらゆる経路でデータを保護します。
恒常的な広範なアクセス権をユーザーに与えるのではなく、アクセスのたびにセッション単位で権限を付与します。一度認証されたからといって、次のアクセスで自動的に許可されるわけではありません。
アクセスの可否は、ユーザーID・デバイスの状態・場所・時間帯・リスクスコアなど複数の属性を組み合わせて動的に判断します。固定的なアクセスリストではなく、コンテキストに応じた適応型の制御が求められます。
アクセスを許可するデバイスは、OSのパッチ適用状況やエンドポイントセキュリティの稼働状況を確認した上で判断します。マネージドデバイスかどうかも、アクセス可否の重要な判断基準となります。
一度の認証・認可で終わりにせず、セッション中もリスクシグナルを監視します。異常が検知された際には再認証や接続遮断を自動的に行います。継続的なリスク評価が、この原則の核心です。
すべてのアクセスログ・認証ログ・ネットワークトラフィックを収集・分析します。収集したデータはセキュリティポリシーの継続的な改善に活用します。ログの可視化と分析基盤が、ゼロトラスト運用を支えます。
SaaS環境は、ゼロトラストの必要性が最も高い領域のひとつです。SaaSは導入ハードルが低く、情シスが関知しないまま各部署で使われるシャドーITが生まれやすい構造があります。アクセス経路も多様で、社内外・デバイスを問わず利用されます。
SaaS環境のゼロトラストで特に問題になるのは次の4点です。
これらを放置すると、ゼロトラストの概念を掲げても実態が伴わない「名ばかりゼロトラスト」になります。SaaS可視化とアクセス管理の整備が、ゼロトラスト実現の第一歩です。
ゼロトラストは一度に完成するものではなく、段階的に積み上げるものです。SaaS環境での実装は、以下の4ステップで体系的に進めることを推奨します。

ゼロトラスト実装の起点は「何が存在するかを知ること」です。社内で利用されているすべてのSaaSを洗い出し、誰がどのSaaSにどんな権限でアクセスしているかを把握することから始めます。
可視化なしにアクセス制御を設計しても、管理外のSaaSが死角として残り続けます。SaaS Discovery機能を持つ管理プラットフォームを活用すると、ブラウザ拡張やネットワーク解析で未把握のSaaSを自動検出できます。可視化で把握すべき情報は以下のとおりです。
ゼロトラストの中核はアイデンティティ管理です。「誰がアクセスしているか」を確実に確認するために、多要素認証(MFA)とシングルサインオン(SSO)を整備します。
MFAはパスワードだけでは突破されるリスクのある認証を、スマートフォン認証や生体認証などの追加要素で補強します。管理者権限を持つアカウントへのMFA適用は、最優先で対応すべき事項です。
SSOはMicrosoft Entra IDやOktaなどのIDプロバイダーを活用することで、複数SaaSへの認証を一元管理できます。ただしSSOに対応していないSaaSは管理の死角になりやすいため、非連携SaaSの把握と対策を並行して進める必要があります。
ゼロトラストの核心は、ユーザーが必要最低限のリソースにしかアクセスできない状態を作ることです。ロールベースアクセス制御(RBAC)を基盤として、各ユーザーの役割に応じた最小限の権限を設計します。
「必要なときに必要な権限だけを付与し、不要になったら削除する」という継続的な管理サイクルが、最小権限アクセスの実践です。入退社・異動のたびに権限を適切に変更するフローを整備することが、この原則の具体化につながります。
ゼロトラストは設定して終わりではなく、継続的な監視と改善が必要です。すべてのアクセスログを収集・分析し、通常と異なるアクセスパターンを検知する仕組みを整えます。具体的に監視すべき異常は次のとおりです。
異常を検知した際に自動でセッションを遮断し、管理者に通知する仕組みを設けることで、インシデントへの対応速度を大きく上げられます。
ゼロトラストを実現するためには、SaaS管理プラットフォームが不可欠な役割を担います。「何も信頼しない」を実践するには、まず「何が存在するか」を完全に把握することが前提です。SaaS管理プラットフォームはその基盤を提供します。
ゼロトラスト実装の前提となるのは、全SaaSの把握です。管理されていないSaaSへのアクセスは制御できません。SaaS管理プラットフォームのSaaS Discovery機能を使うことで、情シスが把握していないSaaSの利用状況も検出できます。
検出されたSaaSを棚卸しし、承認・非承認の判断を行うことで、シャドーITへの対処とゼロトラスト制御の実装を同時に進められます。
ゼロトラストにおけるアイデンティティ管理は、一度設定して終わりではありません。入退社・異動・昇格などの人事変化に連動して権限を継続的に更新する自動化が必要です。
SaaS管理プラットフォームで人事システムと連携することで、入社時のアカウント作成から退社時のアカウント無効化まで、ライフサイクル全体を自動化できます。手作業に起因する漏れや遅延によって発生する孤立アカウントや過剰権限を防止し、ゼロトラストの「常に検証」「最小権限」を継続的に維持できます。
関連記事:孤立アカウントとは
ゼロトラストは継続的な状態維持が求められます。定期的なアクセスレビューを実施し、現在の権限が業務上の必要性と一致しているかを確認します。
SaaS管理プラットフォームのアクセスレビュー機能を活用することで、全SaaSのアクセス状況を一覧で確認し、不適切な権限を検出して是正するサイクルを効率的に回せます。このサイクルが、ゼロトラストの「継続的な検証」を実務レベルで実現します。
ゼロトラストの実装は大規模な投資が必要と思われがちですが、SaaS管理から段階的に始めることで現実的に進められます。ジョーシスのプラットフォームは、ゼロトラスト実現の第一歩となるSaaS可視化とアクセス管理自動化を提供します。
ジョーシスのSaaS Discovery機能では、ブラウザの利用状況を解析し、情シスが把握していない未承認SaaSを自動的に検出します。検出されたSaaSをリスト化し、承認・非承認・対処方針を決定するワークフローに連携できます。
「何が使われているかわからない」という状態を解消することがゼロトラスト実装の起点です。可視化なしにアクセス制御を設計しても、管理外のリソースが常に残り続けます。
ジョーシスのAccess Automation機能では、人事システムや社内ワークフローと連携し、入退社・異動の情報をトリガーとして権限の付与・変更・削除を自動化します。
入社者には役割に応じたアカウントと権限が自動で作成され、退社者のアカウントは退社日に合わせて自動で無効化されます。人手に依存した対応では避けられない漏れや遅延がなくなり、ゼロトラストの「最小権限」「継続的な検証」の原則をライフサイクル全体で実現できます。
ジョーシスのAccess Reviews機能は、定期的なアクセスレビューを効率化します。全SaaSのアクセス状況を一覧表示し、アクセスの妥当性を確認するワークフローを実行できます。レビュー結果は記録として残り、監査対応の証跡にもなります。ゼロトラストの「継続的な再評価」を、手作業の工数を大幅に削減しながら実現できます。
ゼロトラストに取り組ろうとする情シス担当者が抱きがちな誤解があります。整理しておくことで、現実的な導入計画が立てやすくなります。
ゼロトラストは規模に関係なく適用できます。SaaSを10種類以上利用している中規模企業でも、ゼロトラストの考え方は必要です。リソースが限られる組織こそ、自動化によって少人数で高いセキュリティを維持できるゼロトラストのアプローチが有効です。
ゼロトラストは段階的に実装するものです。SaaS可視化を起点に、MFA・SSO整備、最小権限設計、継続的モニタリングと順に進めていきます。完璧な状態を一気に目指すより、現状のセキュリティギャップを埋めることを優先する姿勢が現実的です。
ゼロトラストは組織全体のセキュリティ文化に関わります。権限設計や入退社フローは人事部門との連携が必要ですし、シャドーIT対策は現場部門への啓発も欠かせません。情シスが主導しながら、経営層の支持と各部門の協力を得ることが成功の条件です。
ゼロトラストセキュリティは「何も信頼しない、常に検証する」という原則のもと、場所やネットワークに関わらずすべてのアクセスを継続的に制御するセキュリティモデルです。SaaSとリモートワークが定着した今、境界型セキュリティの限界を補う現実的なアプローチとして採用が進んでいます。
SaaS環境でのゼロトラスト実装は、可視化→アイデンティティ管理整備→最小権限設計→継続モニタリングという4ステップで段階的に進められます。まず現状の抜け穴を把握し、一つひとつ塞いでいくことが出発点です。
ジョーシスのプラットフォームは、SaaS Discovery・Access Automation・Access Reviewsの機能を通じて、ゼロトラスト実現の第一歩となるSaaS可視化とアクセス管理自動化を提供します。自社のSaaS全体像を把握するところから始めてみてください。
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