
新入社員が入社するたびに、複数のSaaSアカウントを手動で作成し、PCを一台一台キッティングし、アクセス権限を部署ごとに設定する。こうした作業を2〜3名で担う情シス担当者にとって、入社シーズンは一年で最も業務が集中する時期です。
しかし実際には、情シス担当者の63.9%が「退職者や入社者のアカウントを適切に管理できていない」と感じているというデータがあります。手順が属人化していると、担当者によって対応にばらつきが生じ、アカウント発行漏れや権限設定ミスが起きます。新入社員が初日から業務を開始できなかったり、過剰な権限が付与されたまま放置されたりするケースは珍しくありません。
本記事では、入社時に情シス担当者が行うべきIT管理業務を、タイムライン別のチェックリストとして整理します。デバイス準備からSaaSアカウント発行、セキュリティ設定、情報セキュリティ教育まで、漏れなく対応するための実践的な手順を提供します。増え続けるSaaSへの対応を自動化する方法も後半で解説しますので、繁忙期を前に体制を整えたい方はぜひ最後までご覧ください。
この記事でわかること:
入社時のIT管理とは、新入社員が初日から業務を開始できるよう、情シスが事前に整えるIT環境の準備全般を指します。PCの設定から始まり、メールアカウントの作成、SaaSツールへのアクセス権付与、セキュリティ教育の実施まで、多岐にわたる業務が含まれます。
情シスが担当するIT管理の範囲を明確にしておくことが、対応漏れを防ぐ第一歩です。
人事・総務の担当領域は、雇用契約書の取り交わし、社会保険・雇用保険の手続き、給与振込口座の登録、社員証・通行証の発行などです。これに対して情シスが担当する領域は次のとおりです。
両部門がチェックリストを共有して連携することで、対応の重複や漏れを防ぎやすくなります。

入社時のIT管理業務が年々難しくなっている背景には、主に3つの構造的な変化があります。
1つ目はSaaSの多様化です。一人の社員が利用するSaaSツールの種類は年々増加しており、Slack、Zoom、Google Workspace、Salesforce、Notion、GitHubなど、部署・職種によっては10〜20種類以上のアカウントを一度に作成しなければならないケースもあります。
2つ目はリモートワーク・ハイブリッドワークの普及です。対面でのデバイス受け渡しが前提だった時代と異なり、PCを郵送してリモートで初期設定を案内するケースが標準になりつつあります。VPN設定やゼロタッチ展開への対応が加わり、準備すべき項目は確実に増えています。
3つ目が少人数情シス体制の問題です。多くの中堅企業では、情シス担当者が2〜5名という少人数で運営されています。4月の一括入社のように複数名が同時入社するシーズンには業務が集中し、手作業でのアカウント管理が追いつかなくなります。
入社IT管理の準備が不十分だった場合、無視できないリスクが生じます。
最も直接的な影響は、新入社員が入社初日から業務を開始できないことです。PCが届いていない、メールアカウントが作成されていない、使用するシステムにログインできない——こうした状況は新入社員のモチベーション低下につながるだけでなく、早期離職の一因になり得ます。
セキュリティ面の問題も深刻です。アクセス権限の設定ミスで業務上不要なシステムへのアクセスが放置されると、情報漏洩リスクが高まります。セキュリティ教育が行われないまま業務を開始した社員がフィッシングメールの被害に遭うケースも、実際に各所で報告されています。
入社IT管理を漏れなく実施するには、「いつまでに何をすべきか」を明確にしたタイムライン管理が前提となります。以下では、入社2週間前から入社後1週間にかけての5つのフェーズに分けて、情シスが実施すべき作業をチェックリスト形式で整理しています。

調達・準備のリードタイムが長いハードウェア関連の手配と、社内システムへの基本的なユーザー登録を完了させる段階です。
デバイス・ハードウェア関連:
アカウント・システム登録:
その他:
この段階で入社者の業務内容と所属部署を正確に把握しておくことが、後の権限設定ミスを防ぐ鍵になります。
SaaSアカウントの発行とアクセス権限の設定を完了させる段階です。リモート入社に対応するためのネットワーク設定もここで行います。
SaaSアカウント発行:
アクセス権限設定:
ネットワーク・リモートアクセス設定:
IT資産台帳登録:
設定済みの環境が正常に動作するかを確認し、当日スムーズに引き渡せる状態を整えます。
動作確認・テストログイン:
資料準備:
配送・梱包(リモート入社の場合):
デバイスの引き渡しとセキュリティ教育の実施が中心となります。この場で適切な説明を行うことが、その後のセキュリティトラブルを防ぐ土台になります。
デバイス・ライセンスの引き渡し:
初期設定の案内:
情報セキュリティ教育:
設定の最終確認と利用状況のモニタリングを行う段階です。問題を早期に把握し、初期段階で解消することが重要です。
設定確認・フォローアップ:
モニタリング開始:
台帳・記録の最終整備:

デバイス準備は、入社IT管理の中で準備リードタイムが最も長い業務です。機器の調達からキッティング、テスト、配送まで、スムーズに進めるには入社日の2〜3週間前には着手しておく必要があります。複数名が同時入社する4月・10月は作業が集中するため、前年度末から計画を立てておくことが現実的な対応になります。
キッティングとは、PCに会社の標準設定とアプリケーションを導入し、すぐに業務利用できる状態にセットアップする作業です。作業を標準化しておくことで、担当者が変わっても同じ品質を維持できます。
OS・ドライバの設定では、インストール後に最新のセキュリティパッチとドライバを適用します。Windows環境ではWindows Updateを完全に適用し、MacはmacOSのアップデートを完了させます。初期設定では会社のドメインへの参加(Windows)またはMDMプロファイルの適用(Mac)が必要です。
セキュリティソフトウェアの導入では、EDRツールやアンチウイルスソフトウェアのインストールが前提となります。デバイス暗号化(WindowsのBitLocker、MacのFileVault)の有効化もここで行います。これらは情報漏洩防止の基盤となる設定で、後回しにできない項目です。
MDMへの登録は、紛失・盗難時のリモートワイプやセキュリティポリシーの一括適用を可能にするために行います。Microsoft IntuneやJamfなどのMDMツールへの登録を入社前に完了させておきましょう。
会社標準アプリケーションのインストールでは、全社員が使用するブラウザ・Officeスイート・コミュニケーションツールを導入します。部署ごとに必要な追加アプリケーションは、権限申請と併せて対応します。

デバイス台帳は、会社が保有するIT機器の管理台帳です。紛失・盗難時の対応や退社時の回収確認に必要となるため、貸与時点での記録が前提になります。
台帳に記録すべき情報は以下のとおりです。機器名・メーカー・型番、シリアル番号・MACアドレス、購入日・保証期限、貸与者の氏名・所属部署、貸与日・返却日、Bluetooth・Wi-FiのMACアドレス。Excelで管理している場合でも、これらの項目は必ず押さえておきましょう。
リモート入社が増えている現在、郵送によるPC受け渡しは珍しくない対応です。梱包材で十分に保護した上で、追跡可能な配送方法を選択します。
セットアップ手順書はスクリーンショット付きで同封するか、メールで事前に送付しておくと新入社員が自力でセットアップできます。ゼロタッチ展開(AutopilotやDEP)に対応したMDM環境を構築していれば、PC起動時に自動的に会社設定が適用されるため、より確実な対応になります。
アカウント発行と権限設定は、入社IT管理の中でも最も工数がかかり、ミスが生じやすい業務です。利用するSaaSの種類が多いほど手動対応の負担が増し、権限設定のミスはセキュリティリスクに直結します。
入社時に発行すべきSaaSアカウントは、全社共通で必要なものと、部署・職種に応じて必要なものに分けて整理しておくと管理しやすくなります。
全社共通で必要なSaaSアカウント:
部署・職種別で必要なSaaSアカウント:
アカウント発行の手順は、申請受付・上長承認・アカウント作成・本人通知の流れを標準化しておくことで、対応品質を均一に保てます。
アクセス権限の付与は、最小権限の原則に基づいて行うことが前提です。従業員が業務に必要な情報・システムにのみアクセスできるよう、権限を必要最小限に絞ります。過剰な権限を付与すると内部不正や情報漏洩のリスクが高まるため、入社時の権限設定は特に注意が必要です。
RBACでは、「部署×職種」の組み合わせでアクセス権限グループをあらかじめ定義し、入社者をそのグループに割り当てます。毎回一から権限設定をする必要がなくなり、設定ミスのリスクも大幅に下がります。
RBACを導入する際の流れは次のとおりです。まず、部署・職種ごとに必要なシステムと権限レベルを洗い出します。次に、権限グループを定義してマトリクスとして整理します。その後、新入社員に該当するグループを割り当て、個別の例外対応は承認フローに基づいて行います。

SSOを導入している企業では、SSOアカウント(Microsoft Entra IDやGoogle Workspace等)を作成することで、連携するSaaSへのアクセスが自動的に設定されるケースがあります。
SSOとSCIMを組み合わせることで、ユーザーアカウントの自動プロビジョニングが実現します。SSOアカウントを作成するだけで、連携するSaaSにアカウントが自動的に発行される仕組みです。ただし、SCIMに対応していないSaaSには引き続き手動対応が必要なため、全体の自動化にはSaaS管理プラットフォームの活用が現実的です。
新入社員へのセキュリティ設定と教育は、入社IT管理の中でも後回しにされがちです。しかし、情報漏洩やサイバーインシデントを防ぐという観点では、デバイス準備やアカウント発行と同等の優先度で取り組む必要があります。
セキュリティ設定が不十分なまま業務を開始した社員がフィッシングメールの被害に遭ったり、個人用クラウドサービスに会社資料をアップロードしてしまったりするケースは、実際に多くの企業で起きています。
入社当日または前日までに完了させるべきセキュリティ設定の優先項目を確認しておきましょう。
MFAの設定については、パスワード漏洩時の不正アクセスを防ぐための基本対策です。業務用メールアカウント、主要なSaaSツール、VPNへのMFA設定を入社当日に完了させます。Google AuthenticatorやMicrosoft Authenticatorの設定方法を案内資料として用意しておくと、スムーズに設定が完了します。
パスワードポリシーの説明では、文字数・複雑性要件・有効期限といった会社のルールを伝えます。初期パスワードは入社後すぐに変更させ、パスワードマネージャーの利用を推奨します。使い回しや推測されやすいパスワードは、情報セキュリティポリシーで明確に禁止しておく必要があります。
デバイス暗号化の確認では、PCのBitLockerまたはFileVaultが有効になっていることをチェックします。キッティング段階で有効化していても、入社当日に動作確認として確認しておきましょう。紛失・盗難時のデータ漏洩リスクを最小化するために欠かせない設定です。

入社時のセキュリティ教育は、形式だけで終わらせないことが重要です。実践的な内容と記録管理の両面を意識して実施してください。
実施すべき教育内容は以下のとおりです。
教育実施後は、受講確認書または誓約書への署名取得し、書面またはデジタルで保管します。コンプライアンス監査の際に証跡として提示できる状態にしておきましょう。eラーニング形式であれば、受講完了ログが自動的に記録されるため管理の手間を省けます。
リモートワークが一般化した現在、オフィス外での業務に伴うセキュリティリスクへの対応も入社時教育に組み込みましょう。
VPN経由での社内システムアクセスを必須ルールとして徹底し、VPN未接続での業務は禁止することを明確に伝えます。カフェや公共施設のWi-Fiでの業務は原則禁止とし、テザリングの使用を推奨します。画面の覗き見防止フィルムも、外出先での情報漏洩防止策として有効です。
チェックリストを用意していても、実際の業務では様々なミスが発生します。発生頻度の高いトラブルのパターンを把握し、事前に防止策を講じておきましょう。

利用しているSaaSが多いほど、対応すべきシステムが増えるため発行漏れのリスクが高まります。これは入社IT管理で最も多く発生するミスのひとつです。
防止策としては、部署・職種別のアカウント発行必須リストを事前に整備し、チェックリスト形式で確認を行うことが基本です。入社申請フォームに「必要なツール一覧」を組み込み、申請時点で必要なアカウントを洗い出す仕組みを作ることも有効です。
アカウントを作成したものの、権限設定が不適切だったというトラブルも頻繁に発生します。過剰な権限が付与されると情報漏洩リスクが高まり、権限不足では業務が進められません。
RBACを導入して部署・職種ごとのロールを事前に定義しておくことが根本的な対策になります。権限設定後は、設定内容を上長または情シス内の別担当者がダブルチェックするフローを設けることが望ましいです。
PCの調達や配送に予想外の時間がかかり、入社当日にデバイスが準備できていないケースがあります。年度末・年度初めは部品不足による納期遅延が発生しやすい時期です。
入社2〜3週間前には機器の手配を完了させることを徹底します。遅延に備えて予備のPCや代替デバイスを確保しておく体制も検討してください。リモート入社の場合は、配送日数を考慮した余裕あるスケジュール設定が必要です。
業務が忙しい入社日には、セキュリティ教育が後回しになりがちです。「入社後に別途案内する」としてそのまま実施されないケースも少なくありません。
入社当日のスケジュールにセキュリティ教育の時間を組み込み、完了するまで次のオリエンテーションに進まないフローを設けます。eラーニング形式にすることで、入社前のプレボーディング期間中に完了させることも可能です。
貸与したデバイスを台帳に登録し忘れるケースも頻繁に起きます。退社時の回収確認や紛失・盗難対応の際に台帳が不完全では、適切な対応ができません。
デバイス引き渡し時に台帳登録を完了させることを、チェックリストの必須項目として位置づけます。引き渡し前に登録を終わらせる運用にすることで、登録漏れを防げます。
チェックリストを整備しても、手動での対応には限界があります。SaaSが増え続ける環境において、効率的かつ確実な入社IT管理を実現するには、自動化の仕組みを組み合わせることが現実的です。
企業が利用するSaaSの種類は年々増加しており、入社のたびに多くのSaaSアカウントを手動で発行していては、情シス担当者の工数が膨大になります。
少人数の情シスチームが4月の一括入社に対応する場面を考えてみましょう。10名が同時入社して、1人あたり10種類のSaaSアカウントを手動で作成するとすれば、100件のアカウント発行が必要です。各システムへのログイン、ユーザー情報の入力、権限設定の確認をすべて手動で行うと、数日分の工数が発生することもあります。
こうした状況への対応として、SaaS管理プラットフォームを活用した自動プロビジョニングの仕組みが注目されています。
SaaS管理プラットフォームを導入することで、入社申請をトリガーとして複数のSaaSアカウントを自動的に発行する仕組みが構築できます。
自動化の流れは次のとおりです。入社情報(氏名・所属部署・役職・入社日)が人事システムに登録されると、プラットフォームがその情報を受け取り、あらかじめ設定されたルールに基づいて各SaaSのアカウントを自動的に作成します。部署・職種ごとのアクセス権限グループへの割り当ても自動で行われ、アカウント作成完了後は本人と情シス担当者への通知が自動送信されます。
ジョーシスのプラットフォームでは、SaaSアカウントの一元管理と自動プロビジョニングを実現する機能を提供しています。人事システムとの連携により、入社情報の登録をトリガーとして複数のSaaSアカウントを自動発行し、ロールベースの権限設定も自動的に適用されます。従来、情シス担当者が手作業で各SaaSの管理画面を操作してアカウントを作成していた工程が、プラットフォーム上の一元的な操作で完結するようになります。
SaaS管理プラットフォームの導入効果は、具体的な事例から確認できます。
株式会社Torikoでは、導入前は専任の情シス担当者がいない状態でデバイス管理台帳と実態に差異が生じており、ISMSの基準を満たせていない状況が続いていました。ジョーシスのプラットフォームを導入したことで、情シス業務全体を約30%削減することに成功しています。退職者アカウントの削除対象が可視化され、デバイスとSaaSアカウントの一元管理が実現したことで、セキュリティフレームワークの運用効率も大きく向上しました。

自動化によって得られる主な効果を整理すると以下のとおりです。
チェックリストは作成して終わりではなく、継続的に見直し・更新することで機能します。新しいSaaSを導入した際には、チェックリストへの追加を忘れずに行ってください。SaaS導入時の手続きとチェックリスト更新をセットにした運用ルールを整備しておくことが、長期的な属人化防止につながります。
情シス担当者が複数いる場合でも、対応品質を均一に保つには、チェックリストを情シス内で標準化・共有することが前提です。
管理方法としては、社内ポータルやWikiツール(ConfluenceやNotion等)にチェックリストを掲載し、最新版に常にアクセスできる状態にしておきましょう。更新履歴を記録しておくと変更点を把握しやすくなります。担当者が変わっても同じ品質で対応できるよう、誰でも使えるドキュメントとして整備しておくことを意識してください。
4月の新卒一括入社や採用増加期には、入社IT管理の業務量が集中します。こうした繁忙期に向けた体制を事前に検討しておきましょう。
PCキッティング業務のアウトソーシングは、繁忙期の情シス負荷を軽減する有効な選択肢です。SaaS管理プラットフォームによる自動プロビジョニングを導入していれば、入社者数が増加してもアカウント発行作業の工数は変わらないため、特に効果を発揮します。
チェックリストの見直しを行うべきタイミングは以下のとおりです。
入社IT管理のチェックリストは、退社時のIT管理手順と表裏一体の関係にあります。入社時に付与したアカウントやデバイスを退社時に確実に回収・削除するためにも、両方の手順を整備しておくことが重要です。
入社時のIT管理は、漏れない・遅れない・ミスしないという3点を徹底することが核心です。
デバイスの準備不足やアカウント発行漏れ、セキュリティ教育の未実施は、新入社員の業務開始を妨げるだけでなく、企業全体のセキュリティリスクにもつながります。タイムライン別チェックリストを活用することで、誰が担当しても同じ品質で対応できる仕組みを構築できます。
一方で、利用するSaaSが増え続ける現代において、手動での入社IT管理には限界があります。SaaS管理プラットフォームによる自動プロビジョニングを導入することで、アカウント発行の工数を大幅に削減し、ミスのリスクを排除できます。
チェックリストの整備と自動化の仕組み構築を並行して進めることで、情シス担当者がより高付加価値な業務に集中できる環境を整えることができます。
ジョーシスのプラットフォームなら、入社申請をトリガーに数十種類のSaaSアカウントを自動発行・権限設定まで一括で完結できます。手動対応によるアカウント発行漏れや権限設定ミスをなくし、入社IT管理にかかる工数を大幅に削減することが可能です。
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