
「ITヘルプデスク業務の効率化方法とは?」をテーマに、PEPを提供する株式会社ギブリーの中村 裕貴さんをゲストに迎え、AIチャットボットを活用したベストプラクティスについて解説していただきました。
本コンテンツでは前編・後編の2回にわたってご紹介します。前編では、情シス・ヘルプデスク業務の現状と課題、AIチャットボットを活用した業務効率化について事例を交えてご紹介いただきました。
後編では、ラクスル株式会社 取締役CTOの泉との「問い合わせ対応の自動化」に関するディスカッションや、よくあるQ&Aについて解説します。</lead>
<スピーカー>
中村 裕貴|株式会社ギブリー オペレーションDX事業部セールスリーダー
2013年株式会社ギブリーに新卒入社。 インキュベーション部門において新規事業創出を担う。 2019年に業務自動化チャットボットの「PEP」の立ち上げ期に参画。 延べ250社の導入に携わり、 現在は営業部門を統括。 数多くのSaaS ベンダーとの共催型でのウェビナーも手掛け、 登壇実績も多数
<モデレーター>
泉 雄介|ラクスル株式会社 取締役CTO
1979年生まれ 10歳でアメリカに渡り、ニューイングランド音楽院作曲科卒業後、制作プロダクションに作曲家として就職。システム開発会社の起業等を経て、2005年モルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券) に入社し、 主に債券関連の取引システム開発に従事。 2012年株式会社ディー・エヌ・エーに入社。 ゲームプラットフォーム事業を経て、 遺伝子検査サービスの立ち上げに携わり、システム開発の技術リードを務める。 2015年10月、 ラクスル入社。 2017年10月に取締役CTOに就任。
AIチャットボットでの業務改善について、中村さんと泉でディスカッションを行いました。

―― 問い合わせ対応の自動化は、基本的にまず取り組むことが前提にあると思いますが、「根本的な課題解決に向けてどう対応していくのか」が本質的な課題だと感じています。チャットボットをどう活用すると課題自体がなくなり、事前に潰すことにつながるのかをぜひお伺いしたいです。
中村さん:チャットボットで解決できることとしてヘルプデスク領域の中でも主眼を置いているのは、定型的なQ&Aです。誰でも答えられる、と言うと語弊がありますが、「こういった質問にはこう回答する」というノウハウがあり、用意されていると割と解決しやすいです。
これまでの対応履歴や、過去の問い合わせ応対のQ&Aがまとまっているお客様はそのまま利用することが多く、ない場合には「こういった質問にはこう回答する」というFAQをご用意いただくことが多いです。
まずはこういった定型的なQ&Aから回答していき、先ほどお話したような人が介在しないと解決できないご質問もあると思います。この部分はチャットボット以外で対応となりますが、電話やメールで対応するだけでも問い合わせの対応工数がかかります。
チャットボットは、有人チャットに途中で切り替えができるため、人が介在するQ&Aもできる限り回答いただくと、事前に課題を潰すことを実現いただけると考えています。前半部分は定型的なQ&A、後半部分は非定型のQ&Aと組み合わせる手法で課題解決につなげます。
泉:会社が持っているナレッジはさまざまだと思いますが、例えば一番大変な状態としては、対応する方の頭の中に過去の情報蓄積があり、インプットが来たらアウトプットを返すことだと思います。
これが複数名になると情報共有を始め、問い合わせ一覧がスプレッドシートなどにあるといったように、ある程度整備されはじめるかなと。そして次の段階では、チケット形式でチケットが消化される度に、カテゴリーが決まっていくというように、お客様によってノウハウの整理や状況に差があると思います。
後者にいけばいくほど仕組み化がしやすいと考えていますが、例えば初期の状態のお客様にはどのように知見の整理をご案内していますか?
中村さん:肌感覚になってしまうのですが、私が日頃お伺いしている印象だと、暗黙知のような「頭の中にあります」みたいなお客様が1割ほどです。対応履歴や一旦アウトプットだけはしている会社がおおよそ6割で、ここがボリュームゾーンになると思います。具体的に言うと、Excelで対応履歴をまとめているケースですね。
泉:それは質問と回答のようにインプットとアウトプットでまとめてあるのですか?
中村さん:はい。よくお見受けするのは、Excelで日付、質問者、対応者、質問内容、回答で蓄積されているものが多いです。残り3割ほどが、既存のクラウドサービスや問い合わせ応対系のシステムを導入し、ログ履歴をチャットボットに使っている印象です。
泉:真面目に情報を蓄積している企業から、自動化にステップアップしやすいという側面があるのですね。ボリュームゾーンに対しては、どの程度のボリュームがあるかにもよると思うのですが、ボリュームと移行期間や導入効果が出始める目安は、ご経験上どのような印象がありますか?
中村さん:おそらくチャットボットに登録するQ&Aの量や数に関わってくることかと思いますが、はじめは平均50から100問程度で、社内に公開することが多い印象です。
50問と聞くと少ないと感じるかもしれませんが、いきなり全部100%の状態で社内公開するのはあまりよくないんですね。これは失敗事例に基づいた話になるのですが、全部の領域を広く浅くチャットボットが学習して公開すると、専門的なQ&Aが投げ込まれた際に答えられず、利便性を感じられずユーザーが離れていってしまうことがあります。
成功するお客様は、まず特定の領域に特化させ、ある程度の完璧さや回答できる状態で社内公開することが多いです。情報システム部内で、OA機器やネットワーク関係から着手するなど50〜100問ほどに絞るため、まとめていただいている対応履歴から一部ピックアップして登録することが多いです。
―― なるほど。そういうQ&Aの追加は、最初から幅広くやりすぎないほうがAIの機能を最大限活用できますし、使うユーザーの目線では「この領域はちゃんと回答できるから大丈夫だ」という認識が段々広がっていき、社内に浸透していくイメージですよね。
中村さん:そうですね。後から肉付けができることが前提になります。チャットボットが作りやすくメンテナンスしやすい仕組みにしているので、後からどんどん肉付けをしていただいて、クラウドで更新していただけることが弊社のサービスになっています。
本記事の前編では、情シス・ヘルプデスク業務の現状やAIチャットボット導入の基礎を解説しています。詳しくは、ITヘルプデスク業務の効率化方法とは?(前編)もご参照ください。

―― ヘルプデスクの業務は何をKPIに設定し、何がどう変われば改善していると判断するのか、それに対してどうアプローチをしていくのか、このあたりの考える際の軸があればお伺いしたいです。
中村さん:重視するKPIの最終ゴールは問い合わせを60%や80%に減らすことになりますが、目標が抽象的だと、「本当に達成できるの?」と思われてしまうかもしれません。そのため、一度最終ゴールよりも手前に数字を設定し、これが達成できれば問い合わせの削減が実現できる、というKPIを設定することが多いです。
ユーザーが100人いた場合、何割がチャットボットを使っているかという利用率と、チャットボットでどれくらい回答したかという回答率の2つがポイントになり、これらを組み合わせることで相乗効果が期待できます。利用率と回答率では、弊社のサポートが重視するのは利用率です。
仮に社員が100人いたときに、チャットボットを使う人数が20人と80人では母数が変わり、最終的な効果がかなり変わってきます。まず利用率を最大化していく、つまり利用率が80%~90%になるよう、とにかく多くのユーザーが使うチャットボットにしていくことを目指しています。
泉:大きな会社になると、まずセクションだけで使ってみるというように細分化しスタートすることはありますか?それとも全社的に導入するのでしょうか?
中村さん:そこは前者のほうが多いですね。フィージビリティやPoCを踏まえ、数万人くらいの規模のお客様でも、まずは1部署で200〜300人から始めるというケースが多いです。
いただいたご質問について、中村さんと泉がディスカッション形式でご回答します。
―― 導入の際に、チャットボットとの連携は簡単にできるのでしょうか?先ほどお話いただいた内容にも紐づくかと思いますが、いかがでしょうか?
中村さん:ご質問はインターフェースでの連携のことだと思いますが、そうであれば「はい」という回答です。先ほどご紹介しましたチャットツール4つとWeb設置は非常に簡単に連携できます。
―― それ以外のツール、例えばZoomやSalesforceといったアプリとも連携できるとおっしゃっていたかと思うのですが、これはコーディングなどが必要になってきますか?
中村さん:そうですね。プログラムの知識が必要になるため、APIがわかる方のアサインや協力いただく形になると思います。
―― 従業員規模で考えた場合の導入効果に関する質問ですね。我々のお客様でも100人位を目安に段々と1人で情シスが回らなくなる、というお話をお伺いすることが多いのですが、このあたりはいかがですか?
中村さん:私も同じように思っています。100名程度のお客様からニーズが出てきて、実際に導入している企業様の従業員規模も100名以上のところが多いです。規模は大きければ大きいほど、スケールメリットが効いてくるというイメージですね。
また、採用を強化している従業員50〜70人程度のベンチャー企業での導入事例もございます。
泉:100名規模の組織では、ヘルプデスクは何名ほどいるものですか?
中村さん:兼任の方が多いため、総務系という大きな括りで情シス機能も包含しているケースが多いです。その場合、全体の質問の一部が情シスのQ&Aになっていることもあります。大体1人で総務と情シスをカバーしているみたいなことが多いと思います。
泉:情シスの専任が1人いる状態では、チャットボットを導入するタイミングとしては、ROIも見合ってきますか?
中村さん:先ほどご紹介した200名規模で700万円の削減は人件費の1人~2人分になるため、人を1人増やすよりも、チャットボット入れて働かせたほうが安くなります。
―― 「チャットボットに来た問い合わせはデータで確認できますか?」というご質問をいただいています。ナレッジがちゃんと体系化されていないお客様は、こういった機能があると便利だと思いますが、いかがでしょうか。
中村さん:管理画面上で、問い合わせとチャットボットの回答といったQ&Aのログはすべて自動で蓄積されており、可視化できるようにグラフ化もされています。具体的には、質問に回答できていないものもわかりますし、俯瞰的に見たユーザーが見ているQ&Aの割合が確認できるランキング画面もご用意があります。
―― 例えば、「この質問は答えられていないから回答のテンプレートを作ったほうがよいよ」みたいな提案はありますか?
中村さん:まさにユーザーからの質問に回答できなかった際には、AIが「この回答を出したほうがいいですよ」、「新規作成したほうがいいですよ」といった提案を上げてくれます。
―― それは便利ですね。
―― 質問するユーザーの表記揺れへの対応についてご質問いただいています。これは悩ましいポイントだと思うのですが、いかがでしょうか。
中村さん:我々の詳細なご提案資料では、回答精度を95%と開示しています。これはAI自体が年々レベルアップしているのが前提で、弊社のPEP以外のベンダーさんでも同じ程度の回答精度と言われています。
回答精度が高いことが前提になってきているため、回答精度を上げるために、管理者がチューニングしやすいか、という視点が重要です。チューニングしやすければしやすいほど、回答精度を上げやすくなるので、管理者が使いやすいかどうかに重点がシフトしていっています。
―― ユーザー目線でフラットに見ると、チャットボットを選ぶポイントは導入の障壁よりも、導入後の運用や改善のしやすさで選んだほうが良いのでしょうか?
中村さん:そうですね。管理者が使いやすいかで選んでいただくと良いかと思います。

―― チャットボット導入する際に社内稟議で通すコツについてのご質問があるのですが、ROIで示すことが多いでしょうか?
中村さん:そうですね、ROIで示すパターンが全体の3~4割ほどです。
弊社側でも社内で上申する際のサポートもさせていただきますが、問い合わせをするユーザー側のメリットもきちんと訴求することを重視しています。情シスだけが得したい、と思われないようにする戦略です。そこで、ユーザーが使いやすく、検索できちんと答えが見つけられることをお伝えしています。
また、先ほどログデータについて触れましたが、決裁を下ろす経営陣はいかに実態が見える化できるか、この点をかなり重要視されています。これまで問い合わせにどの程度のコストがかかっていたのか、ノウハウが属人化せず社内の資産になっていくことを、上申の際にアプローチいただくと通りやすい印象です。
―― ありがとうございます。さまざまなツールをどう導入するのかについては、皆さんが苦労されているところだと思いますので、参考になりそうですね。
今回の「ジョーシス ラーニング」では、株式会社ギブリーの中村 裕貴さんをお招きし、ITヘルプデスク業務の効率化方法についてお話いただきました。
今回紹介した通り、AIチャットボットを活用することでITヘルプデスクの業務改善、効率化を進めることができます。昨今では生産性向上が叫ばれており、チャットボットの活用は益々欠かせないものとなるでしょう。
また、ITデバイス&SaaS統合管理クラウドのジョーシスでは情シス業務の効率化を実現できます。人事データとの紐づけが可能なため、誰が何のSaaS・ITデバイスをどの程度利用しているかが一覧化できるほか、ITツールの問い合わせや故障などヘルプデスクの業務負担を軽減できます。
今回ご紹介した内容を踏まえ、AIチャットボット、そしてジョーシスの導入をぜひ検討してみてください。
また、JosysによるSaaS管理プラットフォームの活用で、情シス業務の時間短縮とコスト削減を実現する方法については、SaaS管理プラットフォームで時間とコストを節約する方法もぜひご覧ください。
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